『どうする家康』父・今川義元は子育て失敗? 「グッドルーザー」となった氏真
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父・義元からの英才教育は意外な形で花開くことに
家康が今川家から独立したことに刺激されたのは、今川家の旧臣たちだけでなく、甲斐の武田信玄も同じでした。しかし、武田家は当時、今川家とは事実上の同盟関係にあった上に、義元の娘(氏真の妹、後の嶺松院)を正室に迎えていた当時の信玄の嫡男・義信は、親今川の姿勢を崩さず、あろうことか父・信玄と対立し、結果、謀反の罪で幽閉され、後に自害させられました。
この騒動により、義信の正室だった氏真の妹は今川家に送り返されましたが、これは当時の慣例上、同盟の破棄を意味する行為でした。それでも信玄は氏真との間に新たな盟約を交わすことを望み、武田家と今川家の友好関係は続けると誓いましたが、その裏で、ドラマでも描かれたように、徳川家・織田家への接近を図っています。
同時期の氏真も、武田信玄の天敵といえる越後の上杉謙信に水面下での接近を試みているので、政治家としての彼は、後世の我々が想像するより、ずっと「まっとう」だといえるでしょう。
永禄11年(1568年)12月13日、信玄と家康は協定を結び、両家同時に駿河侵攻を開始しています。今川家は駿河と遠江の二国の守護でしたが、信玄によって駿河はまたたく間に落とされてしまい、氏真は本拠地・今川館を脱出し、遠江の掛川城まで愛妻・早川殿(ドラマでは糸)と共に落ち延びます。
しかし、ここも徳川軍に包囲され、翌・永禄12年1月12日から戦が始まります。氏真がついに降伏し、戦国大名としての今川家が滅亡したという結果だけが今では取り上げられがちですが、氏真の激しい抵抗は5月17日まで続きました。氏真は、落ち目の自分を見限り、徳川方に寝返ったばかりの(元)重臣の小笠原氏興・長忠父子からも攻め立てられ、限られた手勢だけで、しかも味方してくれる他国の軍勢の到着もないままで4カ月あまりもの間、籠城戦を貫いたわけで、よく言われるような「文弱の徒」どころか、実際には強靭なメンタルの持ち主であったことがわかります。
次回の予告映像の最後には、家康と氏真が一騎打ちする姿が映っていたように思われるので、ドラマの氏真は自身の力では家康には勝てないとはっきり悟り、ここでいわゆる「グッドルーザー」となるのかもしれません。
史実では、徳川家康に降伏した後の氏真は、殺されることもなく、一時は妻の実家である(後)北条家の庇護下に置かれ、後には家康との友好関係を復活させました。
また、天正3年(1575年)3月16日、氏真は上洛し、京都にて信長に対面しています。氏真が父の旧敵である信長にどんな思いで会ったのかは不明ですが、この時の彼の振る舞いは名家出身者として完璧で、茶道の趣味のある信長に、今川家旧蔵の茶掛け(=茶室の床の間にかける絵や書)の名品として知られる「百端帆」を献上したほか、旧知の公家たちと見事な蹴鞠を見せ、信長を驚かせたといいます。
そんな氏真を京都の上流社会との接点とするべく、信長は彼を重用することになります。信長の死後も、氏真は秀吉、家康らとの関係を良好に保ち、5人いた子どもたちの将来をも安定させることに成功し、今川の血脈を後世に伝えました。運命の皮肉を感じずにはいられませんが、父・義元から授けられた教育の成果が、想定された形とはまったく異なるものの、しっかりと活かされたと考えてもよいのではないでしょうか。
家康より1年ほど早く亡くなった氏真の辞世と伝えられる歌は2つあります。
「なかなかに 世をも人をも 恨むまじ 時にあはぬを 身の科(とが)にして」
「悔しとも うら山(やま)しとも 思はねど わが世にかはる 世の姿かな」
「私が大成できなかったのは、時代と自分が合わなかったからだ。全て自分の責任で、運命や誰かを恨んだりしない」とか「悔しいとも羨ましいとも思わないけれど、自分が考えていた世の中とは、本当に変わってしまったな」といずれも己の人生を達観したような歌ですが、その行間からは、やはり無念の思いが溢れてきているように感じてしまいます……。
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