『どうする家康』に「おんな城主」登場! 家康に立ち向かったお田鶴は後世の創作?
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「おんな城主・お田鶴」の逸話は創作なのか?
お田鶴の方にまつわる逸話は多くが江戸時代以降に作られた可能性が高いと先ほどご説明しましたが、では、侍女たちを率いて家康軍と善戦したという「おんな城主・お田鶴」の逸話も後世の創作かというと、完全には否定できるものではない気がします。一般的には、武家の女性は戦のときは城内にこもり、兵士となる男性たちのために、食事を作ったり、鉄砲玉を鋳造したり、傷ついた者たちの介抱をしたりしていたと考えられていますが、本多忠勝の証言として、彼が若かった頃には、眉を墨で太く描き、口はビンロウジュやザクロといった植物を噛んで出た汁で赤く染め上げた恐ろしげな風貌の女武者たちがいて、敵に攻め込まれれば応戦したし、敵陣に攻め込んでいくことさえあった……という彼の手紙が残されています。
もっとも、これは「最近の若い男は軟弱になった」と忠勝が嘆き、「昔の女たちのほうが、今の男たちよりずっと勇敢だった」と主張する文脈の中での話なので、女武者たちの描写について多少の誇張はあるでしょう。ただ、本多忠勝の愛娘で、真田信之に嫁いだ稲姫(小松殿)にも、夫の留守を甲冑姿で男装して立派に守ったという逸話があります。
男装の女武者は、戦国時代以前から存在していたようです。平安時代末期の加賀国の『国務雑事注進』という史料には「女騎」という語が見られます。これは女性の騎馬武者のことを指し、さらにこの書物とほぼ同時期に成立したと考えられる『梁塵秘抄』にも「近江女、女冠者(おうみめ、おんなかじゃ)」というフレーズが出てきます。「長刀(なぎなた)持たぬ尼ぞ無き」と続いていくため、これはメンズファッションを愛好した女性たちの話ではなく、さまざまな層の女性たちが世の中の乱れに乗じ、武装しつつあった現実を伝えているのだと思われます。ちなみに「冠者」とは、元服以前の若い男性を指します。
戦国時代でも、戦における先鋒を務めることが多い騎馬隊には、多くの男装した女武者が紛れ込んでいたと考えられます。というのも、当時の日本の馬は、ドラマに出てくるサラブレッドのように大型ではなく、かなり小型でした。当時の馬は、現代のサラブレッドよりもスタミナを誇っていたとみられるものの、それでも重い甲冑をまとった成人男性を乗せて全速力で走れる時間はわずか10分程度だったという検証データもあります。つまり、先鋒隊として敵の歩兵を迎え撃ち、彼らを蹴散らして本陣に帰参する……という任務が多かった騎馬隊には、体重が成人男性よりも軽いという理由で、女武者あるいは少年兵のほうが向いていたと考えられるのです。主に若い女性たちが、年下の少年たちを率いて戦ったのではないかと筆者には想像されます。
こういう設定が『おんな城主 直虎』にも出てきていたら面白かったのに……と残念なのですが、しかしお田鶴の方と侍女たちが、いくら勇ましく男装の姿で戦おうとしたところで、城を家康軍に取り囲まれた上での持久戦ともなれば、女性に有利な騎馬戦法を取ることもできず、なかなか厳しかったのではないでしょうか。
地域に伝わる伝承によると、お田鶴の方には「椿姫」という異名があるそうです。最後まで家康への城の明け渡しを拒絶し、壮絶な戦死を遂げたお田鶴の方と18人の侍女たち戦死者を土葬した塚に、彼女の親戚にあたる築山殿が鎮魂の思いを込め、椿を植えてやったからその名が付いたといいます。この逸話も、後世に創作されたものにすぎないかもしれませんが、ドラマでも登場するのかどうか注目です。
ちなみに戦後、家康に平定された曳馬城は、拡張工事を受け、浜松城として生まれ変わることになりました。一説に、「曳馬」という名前が「戦に負け、疲れきってもう走れなくなった馬を引いてトボトボ帰る姿を想起させる」という理由から改名されることになってしまったそうです。
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