加害者と遺族の両視点で描く法廷サスペンス! “少年犯罪”をテーマにした問題作『赦し』
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取り返しのつかない罪を犯した未成年者は、はたして更生することができるのか。愛する家族を奪われた被害者遺族は、加害者を赦すことができるのか。少年犯罪というシリアスなテーマに迫った映画『赦し』が公開される。インド出身のアンシュル・チョウハン監督が、日本社会を舞台に独自の視点から捉えた問題作として注目されている。
キャスティングも、日本のメジャー作品とはひと味違う。最愛の娘を殺害された父親役に、ブリランテ・メンドーサ監督作『義足のボクサー GENSAN PUNCH』(22)が海外で高い評価を受けた尚玄。娘を失った痛手を懸命に克服しようとする母親役に、深夜ドラマ『インフォーマ』(カンテレ)や竹中直人監督の『零落』(3月17日公開)など話題作への出演が続くMEGUMI。その再婚相手にオリエンタルラジオの藤森慎吾。そして、同級生を刺殺した加害者に、新進女優の松浦りょうを起用。こちらの予想を上回る熱演ぶりを、各キャストが見せている。
事件が起きたのは7年前。高校に通うひとり娘を同級生に殺害された克(尚玄)は、事件以来ずっと酒浸りの生活を送るようになっていた。そんな克のもとに裁判所から通知が届く。娘をナイフで刺殺した夏奈(松浦りょう)の再審が行なわれるという。犯行当時未成年だった夏奈はすでに7年間の服役生活を送っており、再審の行方次第では即時釈放もありうるらしい。
克の妻だった澄子(MEGUMI)は事件がきっかけで、克とは離婚。グループセラピーで出会った直樹(藤森慎吾)と再婚し、新しい人生を歩もうと必死だった。だが、克に懇願され、澄子も再審が開かれる裁判所へと向かう。裁判官(真矢ミキ)の開廷宣言と共に、さまざまな思惑が入り乱れる法廷ドラマが始まる。
同級生の命を奪ったことを悔い、悪夢にうなされ続けてきた夏奈。かたくなに夏奈を責めることで、娘との思い出を守ろうとする克。過去との決別を願う澄子。加害者と被害者遺族の双方の視点から描かれ、また被害者遺族も一枚岩ではないという先の読めない展開となっている。
アウトサイダーの視点から見つめた現代の日本
本作を撮ったアンシュル・チョウハン監督は、2011年に来日。元々はアニメーターだが、自主映画『東京不穏詩』(18)で実写映画での監督デビューを果たし、第2作『コントラ』(19)は米国最大の日本映画の祭典「ジャパン・カッツ」で第1回大林賞に選ばれるなど、多くの映画賞を受賞した。気鋭の映像クリエイターであるアンシュル監督には、現代の日本社会はどのように映っているのか。また、少年犯罪に興味を持った経緯について語ってもらった。
アンシュル「日本の若い監督たちは、あまり今の日本を描いていないように感じたんです。日本社会においてアウトサイダーである僕には、女子高生が恋愛したり、かわいいカルチャーに出会うような映画ばかりに思えました。僕の前作『コントラ』も女子高生(円井わん)が主人公でしたが、彼女が埋もれていた日本の歴史を掘り起こそうとする毛色の違う作品にしています。今回も高校生たちの間で起きた事件から始まる法廷ドラマですが、僕自身がいちばん関心のあるテーマを盛り込んでいます」
1986年生まれのアンシュル監督は、スーツをきっちりと着こなし、モデル然とした端正なルックスの持ち主だ。そのアンシュル監督が長年にわたって関心を抱いているテーマは「いじめ問題」だという。
アンシュル「日本でもいじめ問題はよくニュースになっていますが、映画にはあまりなっていないことを疑問に感じていたんです。僕自身、インドで過ごした幼い頃はいじめられた経験があります。パーソナルな問題でもあるんです。日本で生活するようになってからも、友達夫婦から『子どもがいじめに遭っている』という話をたびたび聞いています。前2作で脚本を書いてくれたランド・コルターは大阪在住なんですが、新しく書き上げてきたシナリオがいじめを題材にした今回の物語だったんです。資金集めは難航しましたが、どうしても映画化したいという想いが高まり、2021年に撮影に踏み切りました」
いじめは閉鎖的な環境で起きやすく、被害者と加害者の関係が危うい問題でもある。加害者が、逆に被害者に替わってしまうこともある。本作で描かれる女子高生刺殺事件も、再審が進むにつれ意外な真相が明かされていく。
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