実話をベースにした珠玉作『義足のボクサー』 世間の常識と闘う主人公が異郷で手にした自由とは
#映画 #パンドラ映画館
檻の中に閉じ込められていた魂が自由を手に入れて、見違えるように輝きを放ち始める。そして、そんな魂と魂とのやりとりには、言語の違いやハンディキャップのあるなしは関係ないことを痛感させられる。日本とフィリピンとの合作映画『義足のボクサー GENSAN PUNCH』は、日本初の“義足のボクサー”となった土山直純氏の実体験をドラマ化したもの。フィリピン映画界の巨匠であり、国際的に活躍するブリランテ・メンドーサ監督が映画化し、ハンディキャップものや格闘技に関心がない人も魅了する熱い作品となっている。
主演俳優は沖縄出身の尚玄。長崎出身で沖縄でボクサー修行を積んだ土山氏と交流のあった尚玄は、本作のプロデューサーにも名前を連ねている。尚玄はメンドーサ監督に7年ごしで企画を売り込み、フィリピンに渡ってボクシングのトレーニングに励んだ。観客を集めた会場で、リアルなファイトシーンを繰り広げている。
実話に基づく物語は、主人公のナオ(尚玄)が沖縄でトレーニングに打ち込んでいる様子から始まる。沖縄出身の元世界チャンピオン・平仲明信のボクシングジムに通うナオは、他のジム生たちと変わらないハードな練習を重ねている。ただひとつ違いがあるとすれば、ナオの右足は義足だということだった。ナオは幼い頃に右膝下を切断する手術を受けていた。だが、ボクシングに懸ける情熱とパンチは、誰にも負けない自信がナオにはあった。
シングルマザーである母親(南果歩)から愛情いっぱいに育てられ、ナオは日常生活に不満は抱いていない。しかし、ボクシングの練習を続けるうちに、試合で闘いたい、プロの世界に挑戦してみたいという想いを抑えることができなくなってしまう。日本のプロボクシング協会にプロライセンス発行の申請をするものの、「安全性を保証できない」「日本では一度も例がない」と却下されてしまう。
それでもナオは諦めない。日本がダメなら、海外で挑戦してやる。フィリピンに渡ったナオは、ジェネラル・サントス市にあるボクシングジム「GENSAN PUNCH」に迎え入れられた。コーチのルディ(ロニー・ラザロ)の働き掛けで、「試合ごとのメディカルチェック」「アマチュア選手相手に3連勝すること」を条件に、プロライセンスの発行許可を取り付ける。
言葉も文化も異なるフィリピンへ、単身で渡るナオ。「GENSAN PUNCH」に集まる若者たちは、底抜けに明るい。おまけにルディの靴の底まで抜けている。みんな貧乏だが、大好きなボクシングに熱中できる環境がそこにはあった。
身体障害者が気遣われる、常識だらけの日本を離れることで、ナオの表情は生き生きとしてくる。ハンディキャップがあるとか、外国人であるとかは関係ない。おのれの拳だけで、おのれの存在価値を証明するというハードな生き方が、異国のリングでは待っていた。主人公の魂は否応なく奮い立つことになる。(1/3 P2はこちら)
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