8ミリ映画の青春『Single8』 ファインダーの中のヒロインはなぜ美しいのか?
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ファインダー越しのヒロインが美しく感じられる理由
ルーカスやスピルバーグだけでなく、近年の日本映画からも刺激を受けたと小中監督は語る。『サマーフィルムにのって』(21)や『カメラを止めるな!』(17)などの映画づくりをテーマにした若手監督たちの作品も楽しんだそうだ。
小中「主人公たちが苦労して撮った映画を丸々見せるという『カメラを止めるな!』の大胆な構成は、大いに参考にさせてもらいました。『カメ止め』は最初に劇中映画を見せ、後半でそのメイキングを見せるという構成でしたが、本作は広志たちが撮る『タイム・リバース』の制作過程を見せた上で、最後に完成した作品を丸々見せています。『カメ止め』とは逆の構成にしています。作品づくりの苦労を観客にも体験してもらった上で、観客にも作り手の感覚を味わってもらおうという狙いです」
思春期まっただ中の広志の目には、クラスメイトの夏美がまぶしく輝いて見える。カメラのファインダー越しに映る夏美は、ことさら美しい。こちらを振り向く表情は、たまらなく魅力的だ。
なぜ、ファインダーの中のヒロインは、かくも美しいのだろうか。そんなシンプルな疑問にも、小中監督は答えてくれた。
小中「ファインダーを覗いて見る光景は、モニターに映るものとは違うんです。ダイレクトに自分の目で見ていることもあり、気合の入り方が違ってくる。モニターを通すと客観的なものになりますが、ファインダー越しの場合は『カメラの絞りはどうする? 照明は?』などと想像しながら見ているわけです。いわば心の目で見ている状態です。カメラマンの感情がすごく入っています。商業映画を監督するようになってからも、自分でカメラを回す作品もやってみましたが、周りから止めたほうがいいと言われました。作品全体を考えながら、客観的に見ることができなくなってしまうからです。ファインダー越しに見つめていると、すごく感情がたかぶってくるんです」
カメラに映る夏美は、とても魅力的だ。しかも役を通して、物語の中に溶け込み、広志にとってとても近しく、特別な存在に感じられてくる。8ミリ映画の中で擬似的な恋愛を体験する広志だったが、同時に失恋も味わうことになる。
小中「中学で男子2人の物語として撮ったSF8ミリ映画を、高校に入ってほぼ同じ内容で、ヒロインを初めて起用して撮り直しています。当時の僕は恋愛未経験でしたが、女性を初めて描くのにどうして気の強いヒロインを設定し、主人公が振り回された末に失恋する物語にしたのか、今から考えると不思議ですね。僕自身のその後を予見したかのような内容になっています(笑)」
手塚眞や黒沢清らと交流した映研時代
フィクションである映画にはどこか予見性があり、現実世界では気づかなかったような真実もスクリーンには投影される。スピルバーグ監督の自伝的映画『フェイブルマンズ』(3月3日公開)に通じる部分も感じる。
小中「スピルバーグ監督は憧れの存在です。まだ『フェイブルマンズ』は観ていませんが、8ミリでの自主映画づくりから始まり、商業映画を撮るようになったスピルバーグの人生に、どこか自分も並行して歩んでいるようにも感じているんです」
情熱に任せて突っ走る広志だが、周囲のサポートによって映画づくりの面白さにも目覚めていく。とりわけ担任の教師・丸山(川久保拓司)の助言「ファーストシーンとラストシーンで、主人公の何が変わったか」は、本作の大きなテーマになっている。
小中「担任教師は何人かのキャラクターを合わせたものです。実際に中学時代の担任だった音楽教師は、僕の監督デビュー作『CLAWS』にピアノ演奏でアバンギャルドな劇伴を付けてくれました。小学生の頃は兄の小中千昭(『ウルトラマンティガ』などの脚本家)と一緒に映画を撮っていたんですが、中学からは別の学校に通うようになり、それぞれ違う映画仲間と交流するようになった時期でもありました。成蹊高校時代の映画研究部には1学年上に手塚眞さんがいましたし、合宿にはOBたちも参加していました。作品のテーマやシナリオの重要性はOBたちがよく語っていました。立教大学ではS.P.P.(セント・ポールズ・プロダクション)という映画サークルに入りました。すでにOBだった黒沢清さんからは『小中が撮る作品は商業映画の劣化コピーだ。8ミリでも商業映画に勝てる戦略を考えなきゃダメだ』と厳しくも温かい批評をいただきました」
小中監督が青春時代に体験した多くのことが、本作にはさまざまな形になって詰め込まれている。
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