『どうする家康』19歳のカリスマ・空誓上人を支えた“軍師”は本多正信?
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──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ
※劇中では主人公の名前はまだ「松平家康」ですが、本稿では「徳川家康」に統一しております。家康に限らず、本連載において、ドラマの登場人物の呼び方は、原則として読者にとってなじみの強い名称に統一します
『どうする家康』の第7回「わしの家」では、元康から家康(松本潤さん)への改名が描かれましたが、「家」の由来は、瀬名(有村架純さん)が発した「私はここが大好きです。なんだかみんなが一つの家におるようで。私も早うこの家の一人になりたい」という言葉にあったということになっていました。史実では、瀬名の両親にあたる関口夫妻は家康の氏真への謀反の罪に連座して殺されたというのが一般的ですが、ドラマでは処刑される描写はありませんでしたから、家康と瀬名の関係がこじれることもなかったということでしょうか。瀬名の両親の正確な生没年はわからないというしかなく、瀬名の父・関口氏純(親永)については、今川氏真の残した文書から永禄9年(1566年)くらいまでは生きていたのでは……という説もありますので、ドラマはそれを採用したのだと思われます。
次回・第8回は「三河一揆でどうする!」のタイトルどおり、三河一向一揆が本格的に描かれていく内容となりそうです。ドラマでは家康が全ての一向宗の寺から年貢を強制的に取り立てたことが一揆の原因として描かれてましたが、しかし実のところ、史料を見る限りでは、一揆が起きた原因はよくわかりません。
三河には、本願寺系一向宗の寺として、本證寺(現在の安城市野寺町)、上宮寺(岡崎市上佐々木町)、勝鬘寺(しょうまんじ、岡崎市針崎町)がありました。「三河三カ寺」と総称されるこれらの寺には、ドラマでも描かれたとおり、家康の父の代から、「守護使不入の特権」を与えられていました。これは簡単にいうと、寺の中を治外法権の土地とする約束事で、何があっても、役人の武士が(無断で)寺内に立ち入ることはできないわけです。
ドラマで描かれた強制徴収のシーンのように、永禄6年(1563年)、菅沼藤十郎という家康の家臣が上宮寺から「籾(もみ、籾殻を取り除く前の米)」を持ち去ったことが三河三カ寺の激しい怒りを買い、そのことが一揆の原因だとする説があるのですが、研究者によると、菅沼藤十郎という名前の人物が当時の家康の家臣にいたと確認できる記録がないため、真実味に欠けているところがあります(『松平記』)。
あるいは、永禄5年(1562年)、本證寺内に不審者が侵入したので、これを西尾城主・酒井正親が役人を派遣して捕らえたものの、役人が許可なく寺内に入ることを禁ずるという「不入の特権」が侵害されたといって三河三カ寺が怒りだしたことが一揆の発端だとする書物もあります(『三河物語』)。しかし、これも三河三カ寺が怒った理屈としてはあまりに不可思議であり、三河一向一揆が勃発した背景は依然、謎に包まれています。
いずれにせよ、この事件は家康が生涯で経験する3つの大ピンチの最初のひとつとなりました。激戦が約1年にもわたって続き、「飼い犬のように家康に懐いている」と陰口を叩かれるほどの忠臣ぶりだった三河武士たちがバラバラと家康から離反し、一向宗側に付いてしまったのです。「信仰」と「忠義」の間で悩む武士たちが多数いたことがうかがえますね。本多忠勝などは家康への忠義を取ってわざわざ一向宗から浄土宗に改宗していますが、「信仰」を重視した家臣たちもおり、その代表が本多正信でした。
吉良義昭など、三河に残存していた今川家の勢力ももちろん一向宗に味方し、家康に対抗しましたが、興味深いことに、これら今川家の家臣と家康から離反した元家臣たちが協力し、家康を叩く作戦に出たという形跡はないそうです(平野明夫氏の説)。この一揆が「信仰」を守るための宗教戦争であれば、両者が手を組んでもおかしくないはずで、そうならなかったということは、ただの宗教戦争だと言い切ることができない側面があったとみられます。家康を新当主として認めるか、認めないのかという“お家騒動”の側面も強かったのではないでしょうか。「アンチ家康」の立場は同じでも、家康の元家臣と今川勢が手を組まないというところは、当時の武士たちの律儀さがうかがえ、面白いといえます。
さて、公式サイトの第8回の予告文には「家康は半蔵(山田孝之)を寺へ潜入させる。そこで半蔵が目にした空誓(市川右團次)を補佐する、意外な“軍師”の正体は…。」と、意味深な書かれ方をしていますが、この“軍師”こそ、本多正信と見て間違いないでしょう。(1/2 P2はこちら)
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