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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > ティモシー・シャラメが神々しいR18ホラー
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.725

ティモシー・シャラメ主演のR18ホラー 美しき人喰いたち『ボーンズ アンド オール』

ティモシー・シャラメ主演のR18ホラー 美しき人喰いたち『ボーンズ アンド オール』の画像1
若手俳優テイラー・ラッセルとティモシー・シャラメが共演

 文明社会における最大のタブーとして、カニバリズム(人肉食)が挙げられる。人間が同じ人間を共食いするという行為には、戦慄を覚えずにはいられない。そんな禁断のテーマを描いたのが、ルカ・グァダニーノ監督の新作映画『ボーンズ アンド オール』(原題『BONES AND ALL』)だ。

 ルカ監督のブレイク作『君の名前で僕を呼んで』(17)に主演したティモシー・シャラメとの再タッグ作として、注目度がとても高い。『WAVES/ウェイブス』(19)で殺人罪に問われる兄を持つヒロインを好演したテイラー・ラッセルとの共演作となっている。

 ルカ監督にとっては、男たちの愛の世界を描いた『君の名前で僕を呼んで』、カルト的ホラー映画を1970年代ヨーロッパの不穏な社会情勢を背景にしてリブートした『サスペリア』(18)との延長線上にある作品だと言えるだろう。

 R18指定となった本作を配給のワーナー・ブラザーズ映画は「純愛ホラー」と謳っているが、純然なホラー映画にも恋愛映画にもカテゴライズされるものではなく、生きづらさを抱えた若者たちの血まみれの青春映画といった趣きが強い。

 人を食べなくては生きていけないという重い業を背負う主人公たちを、ルカ監督は社会的マイノリティーとして捉え、彼らが懸命に生き抜こうとする姿を描いている。社会派ドラマならぬ、社会派ホラーとして見応えのある作品だ。

罪を犯しながら、旅を続ける若者たち

ティモシー・シャラメ主演のR18ホラー 美しき人喰いたち『ボーンズ アンド オール』の画像2
マレンとリーは、激しい飢餓感から人を食べずにはいられない

 舞台は1980年代の米国、物語の主人公となるのは女子高生のマレン(テイラー・ラッセル)。小さい頃から引っ越しを繰り返し、父親(アンドレ・ホランド)の監視が厳しいこともあって、友達を作ることができずにいた。いつもひとりぼっちでいるマレンのことを、心優しいクラスメイトが気遣い、お泊まり会へと誘う。

 父親の目を盗んでお泊まり会にマレンが参加したことから、衝撃的な事実が発覚する。マレンに優しく接するクラスメイトと戯れていたマレンだったが、ふいにクラスメイトの指をマレンは食いちぎってしまった。マレンはeater(人喰い)だったのだ。

 マレンが事件を起こしたことを知り、父親は「これ以上は耐えられない」と姿を消してしまう。父親が去った後には、わずかなお金、出生証明書、録音テープが残されていた。録音テープには、幼少期のベビーシッターに始まり、マレンが親しくなった人たちを次々と捕食してきた過去が語られていた。

 マレンは幼い頃に失踪した母親を探す旅へと向かう。母親を見つけることができれば、自分が生きる場所もあるのではないかと考えたのだ。長距離バスの行き先には、米国中西部の荒凉とした風景が広がっている。

 旅の途中、マレンは人生を大きく左右する2人の男性と出逢う。最初に出逢った年配の男性・サリー(マーク・ライランス)は、匂いでマレンの秘密に気づいた。サリーもまた人喰いだった。サリーは人喰いとしての処世術や人喰い同士は食べてはいけないというルールをマレンに教える。

 サリーと別れた後、マレンの嗅覚に強く訴えかける若者・リー(ティモシー・シャラメ)が現れる。リーもやはり同属だった。年齢の近いリーとマレンは、人喰いとしての悩みを共有する。ずっと孤独だったマレンにとって、リーは初めての仲間と呼べる存在だった。重い運命に翻弄されながらも、マレンとリーは旅を続けることになる。

 凄惨なカニバリズムシーンとは対照的に、マレンとリーとの旅する姿は青春ロードムービーとしての輝きがある。社会のどこにも居場所のない主人公たちが、安住の地を求めてさまよい続ける。

 罪を犯した恋人たちが米国の荒野を旅する様子は、テレンス・マリック監督が実在の殺人事件を題材にして撮り上げた伝説のデビュー作『地獄の逃避行』(73)を思わせるものがある。アメリカンニューシネマの世界を、ホラー要素を交えてリブートした作品だと言えるかもしれない。イタリア出身のルカ監督の、アメリカンニューシネマへのリスペクトを感じさせる。

 マレンは母親と再会することで、自身のアイデンティティを受け入れることができるのか。また、マレンとリーは人間社会で生きていくことができるのか。目が離せない展開が続く。

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