『ブラッシュアップライフ』『100よか』…今期一番の期待作は? 冬ドラマ序盤ランキング
#ドラマ #100万回 言えばよかった #罠の戦争 #ブラッシュアップライフ
民放ゴールデン・プライム帯の冬ドラマは、一番早くスタートした『警視庁アウトサイダー』が4話まで進み、また最後発組の『スタンドUPスタート』が2話まで進んだので、このタイミングで恒例の民放連ドラ「序盤ランキング」を行いたい。
今回もまた序盤までの内容から、今後も楽しく観られそうな「期待作」と、放送前の期待や初回の内容に反して……な出来だった「ガッカリ作」を3作ずつピックアップする。なお、本企画ではシリーズ物の新作(『相棒』など)は除外とする。
期待のドラマ3位 『警視庁アウトサイダー』木曜21時~(テレビ朝日系)
〈あらすじ〉
桜町中央署の刑事課に、ダブルのスーツにサングラスという任侠ファッションの男・架川英児(西島秀俊)が異動してくる。五十路を過ぎて警視庁本庁の組織犯罪対策部から所轄に飛ばされた元マル暴のオヤジ刑事だ。だが、左遷となったトラブルにはウラがあり、その真実を探るためにも組織犯罪対策部へと復帰しようと、架川は上司へのアピールの材料となる功績のチャンスを狙う。その架川とバディを組まされたのは、周囲から非の打ち所がないと評される所轄のエース刑事・蓮見光輔(濱田岳)。だが、蓮見はある秘密を抱えており、これに勘付いた架川に協力させられる羽目に。そこに、実の父が警察組織の上層部にいるという事実を隠している新米刑事・水木直央(上白石萌歌)が2人の下につくことになり…。
3位と4位は『罠の戦争』と迷ったが、『罠の戦争』はキャスト・布陣など事前情報からもともと期待度は高かったため、こちらを3位に。
正直、初回は戸惑った。木村ひさしの“らしい”演出もしつこく、予告映像やポスタービジュアルのクールな雰囲気とは真逆で、「シリアスとコメディーが絶妙なスピード感でからみあう、いまだかつてない刑事ドラマ」という事前のドラマ紹介以上に、コメディ色が強く感じられたからだ。そして少々、ネタ要素がくどくも感じられたため、不安も覚えた。だが、第2話で架川(西島秀俊)と蓮見(濱田岳)のコンビに水木(上白石萌歌)が絡むようになり、主に蓮見がツッコミ側(だがボケてもいる)に回ることでコメディとしてのバランスがよくなり、回を重ねるごとにおもしろくなってきている。さらに、初回ラストの架川と蓮見の対立が醸した一瞬のシリアスな空気もさすがのひと言だったが、第4話後半で物語そのものがシリアスに一気に傾く展開を見せたのは率直に興奮した。どこか、木村ひさしの師・堤幸彦の『ケイゾク』終盤にドラマのテイストが一気に変わったのを思い出した……というと言いすぎだろうか(第3話・第4話の演出は木村ひさしではないが)。
このままシリアスムードに突っ切っていくのかは定かではないが、物語が俄然盛り上がってきたといっていい。テレ朝木曜ドラマは全9話が多いため、このままクライマックスへと駆け上がっていくことも期待できる(前期の『ザ・トラベルナース』に至っては、『六本木クラス』の影響か、全8話だった)。シリアス色が強まっても、「しげるのブラックコーヒー(松崎しげる)」「イサオの微糖(尾藤イサオ)」「欧陽珈琲(欧陽菲菲)」といった小ネタ美術は差し込まれるだろうし、水木のマイペースぶりも変わらないであろうから、クスっと笑える部分も健在のはず。『はぐれ刑事純情派』オマージュがどう物語に影響するかも気になるところだ。
期待のドラマ2位 『100万回 言えばよかった』金曜22時~(TBS系)
〈あらすじ〉
幼なじみでお互いを運命の相手だと確信していた相馬悠依(井上真央)と鳥野直木(佐藤健)。悠依にプロポーズしようと決めた矢先、直木は不可解な事件に巻き込まれてしまう。最愛の人が突然姿を消した悲しみに暮れながらも直木を懸命に探す中、悠依は刑事・魚住譲(松山ケンイチ)と出会う。後日、譲は街中で直木の姿を見つけて話しかけるが、なんと直木は幽霊の姿となっていたのだった。直木は、自身の存在を唯一認識できる譲に、自分の言葉を悠依に伝えてほしいと頼むが…。
井上真央×佐藤健×松山ケンイチの共演で、安達奈緒子脚本によるオリジナル作品。事前の期待度がもっとも高かったドラマではないだろうか。事前情報では幽霊が登場する「切なくて温かいファンタジーラブストーリー」ということで、どういう作品になるのか想像がつかないところがあったが、第2話以降、「直木(佐藤健)は何に巻き込まれ、なぜ幽霊になったのか」という部分のミステリー色が思いのほか強まってきており、ラブストーリー×サスペンスという点では『最愛』を想起させるところがある。
ひとつ謎が解けるごとに新たな謎が降りかかってくる展開の中、医師のソン・ハヨン(シム・ウンギョン)、幽霊の樋口昌通(板倉俊之)らのキャラクターがどんなふうに物語に絡んでくるかも読めない。怪しげな尾崎莉桜を香里奈が演じているというのも絶妙だ。また、直木の遺体はまだ見つかっておらず、「本当に死んでいるかどうか」すらわからない。『100万回生きたねこ』がカギとなりそうなことを考えると、転生の展開もあるのだろうか。映画『ゴースト/ニューヨークの幻』に似た設定はおそらく偶然ではないのだろうが、どう違いを見せるのかも含め、今後の展開がどうなるのか楽しみだ。
期待のドラマ1位 『ブラッシュアップライフ』日曜22:30~(日本テレビ系)
〈あらすじ〉
地元の市役所で働く近藤麻美(安藤サクラ)はごくごく平凡な人生を送っていた。ある日、幼なじみの夏希(夏帆)、美穂(木南晴夏)の3人でご飯やカラオケをしながら同級生のうわさ話で盛り上がり、このまま平凡な人生が続くと思っていたのだが……その夜、トラックにはねられ、あっけなく死んでしまう。気が付くと麻美は真っ白な空間にいた。困惑する麻美に、死後の世界の案内人なる男(バカリズム)が現れる。休む間もなく宣告された来世は人間ではなく、麻美はガッカリするが、もう一度、近藤麻美として同じ人生をやり直して徳を積めば人間に生まれ変わる確率が上がると聞いて、「だったらそれがいいです」と人生のやり直しを選択する。かくして麻美の人生2周目が始まった――。
今期はやはり、『ブラッシュアップライフ』が一番ではないだろうか。もはやいろんなところで語り尽くされているだろうから改めて説明するのも気恥ずかしいが、『素敵な選TAXI』や『架空OL日記』を生んだバカリズムの集大成的な作品に仕上がっており、間違いなく彼の代表作になるだろう。何度も人生をやり直すというタイムループ設定と、“あるある”が盛り込まれた日常を切り取った自然な会話劇が絶妙に絡み合い、なんでもない会話の中に伏線が忍ばされ、回収されていく巧みさ。主に平成を中心とした当時の風俗やブームを“あるある”として織り交ぜるのもうまい。固有名詞の数々を、坂元裕二とは違うアプローチでストーリーのキーワードにしてもいる。キャスティングも絶妙かつ、豪華だ(水川あさみ、夏帆ら“なじみ”の起用も含め、ここは坂元裕二的と言えるかもしれない)。
第3話では、麻美(安藤サクラ)が「ドラマ好き」という設定に引っ掛けて、前野朋哉が〈『リバーサルオーケストラ』に出演中の前野朋哉役〉で出演するという、現在放送中の日テレドラマとの大胆なコラボも行われたが(無論、ただのコラボで終わらない“使い方”が見事なのだが)、3周目に入った麻美は第4話で日本テレビに入社し、ドラマ班に配属。「テレビドラマが描くテレビドラマの世界」に突入したことで、ますますおもしろくなりそうだ(得意のメタ展開もさらに増えそう)。「いかにしてドラマ撮影を“巻く”か?」という話をエンタメとして成立させることができる脚本家はなかなか他にいないだろう。それにしても、はたして麻美は何周することになるのだろうか。そして麻美はどんな最後/最期を迎えることになるのか。続きが気になる一方で、伏線回収の妙をもう一度最初から味わいたくなる中毒性の高いドラマだ。
『ブラッシュアップライフ』バカリズム脚本の見事なミステリー構造と意外な伏線
新作ドラマが出揃ったが、頭1つ抜けて面白いのがバカリズム脚本の『ブラッシュアップライフ』だ。日曜夜10時30分から日本テレビ系で放送されている本作は、33歳の近藤麻美...期待のドラマ次点(4位)『罠の戦争』月曜22時~(カンテレ制作・フジテレビ系)
前述のとおり、『罠の戦争』はある意味で手堅い面もあったため4位としたが、こちらも次のストーリーが気になる作品だ。復讐劇というわかりやすさ、息子を歩道橋から突き落とした犯人とその目的の謎、そして各話ごとに勧善懲悪的なスッキリ展開も盛り込まれ、キャスト陣の演技も申し分なく(“悪役”たちの悪っぷり!)、安定して楽しめる。いい人のようだが、時折怖い目をし、何を考えているかわからないところがある主人公・鷲津亨はまさに草彅剛にふさわしい役柄だし、驚異的な記憶力の持ち主というところは『銭の戦争』の主人公を思わせニヤリとさせられる。永田町を舞台にした復讐劇、今後も楽しみだ。
なお深夜帯では『リエゾン-こどものこころ診療所-』(テレビ朝日系)や『三千円の使いかた』(東海テレビ制作・フジテレビ系)なども良作。特に同名マンガの映像化となる『リエゾン』は、原作の枠組みを生かしながらも設定や筋書きを大胆に書き換えた吉田紀子(『Dr.コトー診療所』シリーズ、『その女、ジルバ』など)の脚本がいい。
原作では、主人公となる小児科の研修医・遠野志保は、度重なる問題行動によって臨床研修の引き受け先が見つからず、唯一受け入れてくれた地方の児童精神科の病院に行くことになるが、院長・佐山卓の行動を早とちりで誤解。さらに佐山から「あなたは発達障害です」と思わぬ通告をされるという、マンガの第一話ならではの急展開を見せる。だがドラマでは、さすがに専門家とはいえ、いきなり初対面の人間に発達障害だと突きつけるようなことはなく、志保は以前から自分の多動傾向にうすうす気づいており、クリニックで出会った子どもに昔の自分を重ね合わせ、佐山に自ら、自分は発達障害の可能性があるので診断してほしいと依頼する流れに変わっている。また、原作は早いうちから研修医の志保が“活躍しすぎている”印象だが、ドラマは原作での志保の活躍パートがうまくほかのキャラクターに分散されており、志保はクリニックでの仕事に徐々になじみつつ、ここぞという時にはしっかりと力を発揮する展開に。人にはそれぞれ得意なこと・不得意なことがあり、発達障害の(可能性のある)志保だからこそできること(寄り添えること)があるというストーリーからすると、ドラマの流れのほうが自然に感じられるのだ。
同じエピソードを扱いながらも、設定や話の筋が大きく変わっているため、残念ながら省略されている部分もあるが、子どもとその親が抱えている問題とその解決までの経緯が原作以上に丁寧に描かれているのは、1時間枠のドラマならではといったところ。発達障害を抱える研修医という役どころを、大げさにすることなく自然に見せる松本穂香の演技もいい。だが、それだけに第2話のようなハードなエピソードは、原作以上に重く心にのしかかる。昨秋の『PICU 小児集中治療室』同様、いい作品なのだが、再生ボタンを押すのにちょっと精神的な余裕が必要かもしれない。
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