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『インフォーマ』『ムショぼけ』と沖田臥竜が尼崎を舞台に物語を作る意味

 

『インフォーマ』公式サイトより(©カンテレ)

ドラマ『インフォーマ』の第1話で、佐野玲於演じる三島寛治が呼び出された商店街。さびれたアーケードに囲まれた昭和の匂いが強く残る、ある意味“エモい”空間として、視聴者の間でも話題になった場所だ。そこは昨今、ドラマのロケ地として注目度が上がっている「三和市場」。『インフォーマ』の原作者、沖田臥竜氏の出身地・尼崎にあるが、沖田氏が前作『ムショぼけ』に続き、ロケ地として、尼崎を選んだことには理由があるという。「地元愛などではない」と言い切る沖田氏の真意とは――沖田氏による『インフォーマ』を読み解くための恒例エッセイ。

ドラマで全国区に押し上げた尼崎・三和市場

 長澤まさみ主演ドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—』(カンテレ)でも使われたことで、「あれっ! あの市場って『ムショぼけ』(朝日放送)でリサが登場してきたところではないか!?」と、多くの視聴者をざわつかせた兵庫県尼崎市にある三和市場。

 すまない、寂れ果てた三和市場を全国区にのし上げたのは私である。もちろん、『ムショぼけ』に続き、ドラマ『インフォーマ』でもロケ地として使っている。何だったら、一切誰にも触れられていないが、私が木下ほうかにお願いされて撮った未完のYouTubeドラマ『死に体』でも冒頭シーンのロケ地として突っ込んでいたりする。

独特な雰囲気が印象的な「三和市場」のシーン(『インフォーマ』より)

 私が出身地である尼崎を自分の作品の撮影で使用すると、よく「地元の尼崎が好きなんでね!」と言われる。しかしながら、何度も述べてきたように、そんな地元愛、望郷愛などは微塵も持ち合わせていない。

 それならば、なぜ、尼崎を撮影現場に取り入れるのか。それは「戦える場所」で、ドラマでも小説でも他作品を圧倒したいからだ。

 人の営みを考えるとき、必然的にそれぞれの暮らしの中には、その街やその場所に根付いた文化と風習というものが存在する。もっと言えば、人とは、そうした文化や風習と共存しているのだ。

 たとえば、自分が知らない街でも、ドラマのロケハンをすれば、もちろんそこを知り、舞台にすることもできるし、取材をすれば、その場所を取り入れた物語や原稿を成立させることもある。だが、生まれ育った街というは、そこに根付いた文化や風習を必然的に体感しているのだ。つまり、それは私にとって物語を作る上で、どこよりも戦える場所になるのだ。

 私は、尼崎という自分の戦える場所を武器にして、まずは地元からブーストがかかって評価されれば、全国でも世界でも戦えるはずだ、と思っている。

 そしてもう一つ、誰でもそうだと思うのだが、生まれ育ってきた街には、他の地域よりも断然、友人や知り合いが多い。

 私は、私の知らないところで、知らない人たちに「インフォーマ面白かったね」「ムショぼけ最高だったね」と言ってもらえることももちろん嬉しいことだが、知っている人たちから「インフォーマ面白かったで~」「ムショぼけ泣いたで~」と言われることに、何よりの喜びを感じるのだ。

 十数年ぶり、二十数年ぶり、もっといえば、三十年ぶりに「久しぶり、ドラマ観たで!」と、知り合いから連絡があることだってある。私なんて、たかだか尼崎の片隅で生きてきた人間だ。金を稼げるに越したことはないけれど、そうした知り合いや私が大事に思う人たちからの声は、決して金銭では買うことのできない喜びを与えてくれるのだ。

ロケ現場の様子
ロケ現場の様子

 それに、ドラマを観る側、小説を読む側の気持ちを考えたときも、自分の知っている街や店がテレビや映画、小説の中に出ていると自然と話題にする。私にとって、それが尼崎なのである。

 戦える場所で時間をかけて作品を作り、世の中に挑むのだ。その過程には、楽しいことなんてほぼない。喜びを噛み締められるのは、ドラマにしても小説にしても、完成してからだ。

 だが、尼崎での撮影現場を眺めながら、ふとした拍子に感じることがある。監督をはじめとしたスタッフの人々、俳優部の人々、テレビ局の人々、これだけ大勢の人たちが私の地元に来て、作品を作ってくれているのだ。本当に途中で筆を折らずによかったと。

 もし私が途中で書くことを諦めていれば、もしかすると三和市場は寂れたままだったかもしれない。

 尼崎という街も、ダウンタウンの出身地として知られているだけの場所だったかもしれない。私が尼崎のイメージのすべて塗り替えたなんて、大それたことはいうつもりはさらさらない。

 だが、書き続けたことで、私の夢に乗ってくれた人々、協力してくれた人々、応援してくれる人々、そして、尼崎市民の新たな想いが生まれたのは確かではないだろうか。

 もう一度言う。私に地元愛なんてものはない。

 だが、尼崎にはダウンタウン以外にも沖田臥竜という書き手の地元としても知られたらよいなと思っている。ダウンタウンすら超えてしまったりして…なんてな。冗談である。

 今晩、カンテレでは『インフォーマ』第2話、Netflixでは第3話の幕が上がる。用意はいいだろうか。思う存分、インフォーマを堪能してもらいたい。

(文=沖田臥竜/作家)


小説『インフォーマ』
沖田臥竜/サイゾー文芸/税込1320円
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週刊誌記者、三島寛治の日常はひとりの男によって一変させられる。その男の名は木原慶次郎。クセのあるヤクザではあったが、木原が口にした事柄が次々と現実になる。木原の奔放な言動に反発を覚えながらも、その情報力に魅了された三島は木原と行動をともにするようになる。そして、殺人も厭わない冷酷な集団と対峙することに‥‥。社会の表から裏まで各種情報を網羅し、それを自在に操ることで実体社会を意のままに動かす謎の集団「インフォーマ」とはいったい何者なのか⁉パンデミック、暴力団抗争、永田町の権力闘争、未解決殺人事件…実在の事件や出来事を織り交ぜ生まれた「リアル・フィクション」の決定版!


ドラマ『インフォーマ』
毎週木曜深夜0時25分~0時55分放送中(関西ローカル)
見逃し配信:カンテレドーガ・TVer
Netflixでは地上波に先駆けて先行配信中
公式サイト https://www.ktv.jp/informa/


ドラマ『インフォーマ』予告映像

桐谷健太演じる主人公で、裏社会・政治・芸能など、あらゆる情報に精通するカリスマ的情報屋“インフォーマ”木原慶次郎と、佐野玲於(GENERATIONS)演じる週刊誌「タイムズ」記者・三島寛治が、警察・ヤクザ・裏社会の住人たちを巻き込み謎の連続殺人事件を追うクライムサスペンス。事件の背後に存在する謎の集団のリーダーで、木原の因縁の相手となる男を、事務所移籍後初のドラマ出演となる森田剛が演じる。

作家。2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、小説やノンフィクションなど多数の作品を発表。小説『ムショぼけ』(小学館)や小説『インフォーマ』(サイゾー文芸部)はドラマ化もされ話題に。最新刊は『インフォーマ2 ヒット・アンド・アウェイ』(同)、『ブラザーズ』(角川春樹事務所)。調査やコンサルティングを行う企業の経営者の顔を持つ。

Twitter:@pinlkiai

最終更新:2023/01/26 11:41
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