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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 中国当局の検閲と戦い続ける監督の新作映画
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.721

中国当局の検閲が2年間にも及んだ犯罪ミステリー『シャドウプレイ完全版』

監督の神経をすり減らす、当局による執拗な検閲

中国当局の検閲が2年間にも及んだ犯罪ミステリー『シャドウプレイ完全版』の画像3
ヤン刑事(ジン・ポーラン)は被害者の娘・ヌオ(マー・スー・チュン)と懇意に

 ロウ・イエ監督の公私にわたるパートナーであり、本作の共同脚本も務めたマー・インリー監督が手掛けたドキュメンタリー映画『夢の裏側』も同日公開される。中国当局から睨まれながら、ロイ・イエ監督が『シャドウプレイ』のロケハンから、脚本の読み合わせ、長回しを多用した撮影、劇場公開に至るまでを追ったメイキング作品だ。

 事前に脚本を提出して許可をもらっているはずなのに、撮影が始まってからもトラブルが絶えない。暴動が起きた広州のシエン(洗)村でロケ撮影を行なおうとしたところ、撮影直前になって地元の自治体がNGを告げる。苦労して撮影を終えても、さらなる難題が待っていた。暴動シーンを大幅にカットしろなど、作品の根幹に関わる検閲指示とロウ・イエ監督は闘うことになる。

 Jホラー映画の第一人者である鶴田法男監督も、「青い鯨事件」をモチーフにした『戦慄のリンク』(公開中)を中国で制作した際、検閲のやりとりで神経をすり減らしたと語っている。幽霊よりも、中国当局はずっと恐ろしい存在だった。

 当局とロウ・イエ監督との検閲をめぐる交渉は、2年近くに及んでいる。最後まで音を上げなかったロウ・イエ監督の粘り腰もすごい。それでも香港でのロケシーンなどがカットされたため、今回の完全版を国外で上映することになった。

 中国を離れ、もっと自由に映画が撮れる海外へ移住すればいいのにとも思ってしまうが、ロウ・イエ監督はそれをよしとはしない。1989年6月、天安門前広場へのデモ行進に大学生のひとりとして参加していた彼は、あくまでも中国にとどまって、中国社会とそこで暮らす人々の変わりゆく姿を撮り続けようとしている。

 ロウ・イエ監督の前作『ブラインド・マッサージ』(14)では、視覚障害者たちの「視点」からバブル景気に酔う中国社会が描かれていた。マッサージ院で働く主人公たちは目が不自由な分、他の感覚を研ぎ澄まし、人々の心変わりを敏感に察知していた。

 社会や経済の変化によって、人間の心はどう変わっていくのか。ロウ・イエ監督が撮る映画には、現代人が豊さと引き換えに忘れ去ってしまったものが「影絵」としてくっきりと映し出されている。

『シャドウプレイ 【完全版】』
監督/ロウ・イエ 脚本/メイ・フォン、チウ・ユージエ、マー・インリー
出演/ジン・ボーラン、ソン・ジア、チン・ハオ、マー・スーチュン、チャン・ソンウェン、ミシェル・チェン、エディソン・チャン
配給/アップリンク 1月20日(金)より新宿K’s cinema、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開 ※メイキングドキュメンタリー『夢の裏側』も同日公開
©DREAM FACTORY, Travis Wei
uplink.co.jp/shadowplay/index.html

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最終更新:2023/01/19 20:00
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