中国当局の検閲が2年間にも及んだ犯罪ミステリー『シャドウプレイ完全版』
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事件の発端は、1989年の「天安門事件」にあった
亡くなったタンの人間関係は、意外とあっさり判明する。タンは大学時代の1989年に、妻となるリン(ソン・ジア)、親友のジャン(チン・ハオ)と出逢っていた。1989年は「天安門事件」が起きた年だ。多くの若者たちが中国の民主化を求めた熱い時代だった。そんな高揚した空気の中で、タン、リン、ジャンは青春を謳歌した。
当時のリンは、イケメンのジャンと交際していたが、ジャンが既婚者だったことから、秀才タイプのタンと結婚する。タンは父親が官僚で、将来が保証されていた。リンと別れたジャンは単身で台湾へ渡り、実業家として成功。その後、中国に帰還したジャンは不動産王となり、市の再開発を担当するようになったタンと手を組む。すっかり大人になった3人組は、第2の青春を満喫しているかのようだった。
表層だけを追うと、大学時代の仲良し3人組が、うまくバブル経済に乗り、自分たちの理想の街をつくろうする夢物語のように感じられる。だが、ヤン刑事が調べていくうちに、その夢物語の裏には歪んだ人間関係があり、犠牲者がいたことも分かる。
台湾時代のジャンを経済的にも精神的にも支えたのは、ホステスのリエン(ミシェル・チェン)だった。彼女の献身さのおかげで、ジャンは不動産王に成り上がることができた。ジャンのビジネスパートナーも務めていたリエンだったが、2006年ごろに忽然と消息を絶っていた。
ヤン刑事の父親も捜査官で、リエン失踪事件を担当していたが、捜査中に事故に遭い、事件は迷宮入りしていた。タンとリンとの間には、ひとり娘のヌオ(マー・スーチュン)がいる。香港の大学に通う現代っ子のヌオも、父親の不審死事件に否応なく巻き込まれていく。「天安門事件」の時代に出会った親たちの因果が、中国30年の歴史と共に子どもたちの世代に大きな影響を与えることになる。
英題となっている「The Shadow Play」は、直訳すれば「影絵芝居」となる。今回のロウ・イエ監督は『天安門、恋人たち』のように直接的には天安門事件に触れていない。だが、天安門事件が登場キャラクターたちの人生を大きく左右したことは、彼の過去の作品を観た者には容易に推測される。
1989年6月、中国の民主化を願い、多くの大学生や市民が天安門前広場へとデモ行進した。ところが、彼らは中国政府から反逆者と見なされ、人民解放軍によって武力鎮圧されてしまう。市民側の死者数は3000人とも、1万人とも言われている。
皮肉なことに天安門事件後に市場開放が進み、中国バブルが花開くことになる。街は華やかになり、人々の暮らしは豊かになった。だが、ロウ・イエ監督は、天安門前広場で起きた悲劇を忘れようとしない。中国社会が明るくなればなるほど、天安門事件の記憶が強烈なシルエットとして浮かび上がる。
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