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TVerドラマ人気ランキング番外編

『ミスなか』『silent』でフジテレビがリードか TVer「再生数もMAUも倍増」で存在感増す

『ミスなか』『silent』でフジテレビがリードか TVer「再生数3倍増」で存在感増すの画像
フジテレビ総合エンタメメディア「フジテレビュー!!」より

 見逃し配信サービスとして知られる「TVer」。在京民放キー局5社を中心として2015年10月に始まった同サービスは、参加局、取り扱う番組も増え、今や“定番”といえるほどに利用されるようになり、認知度も高まった。2022年10月時点でTVerアプリのダウンロード数は5300万を超え、この10月にはTVer単体の月間アクティブユーザー数(MAU)が2000万、再生回数が2.5億にまで達した(※月間再生数2.5億回は2022年3月にも達している)。2020年6月の記録ではMAUは1000万、再生数は9500万と発表されており、つまり2年半に満たない間にMAUで2倍、再生数は2.6倍まで成長したことになる。

 マイページなどの機能が楽しめるログイン機能「TVer ID」も2022年度内に500万登録を見込んでいるといい、TVerユーザーが確実に増えていることがうかがえる。特にTVer人気を牽引しているのはドラマで、「TVer総合ランキング」では改編期などをのぞき、ドラマ作品が多数ランクインする光景が日常的だ。TVerが発表している番組再生数ランキングでも、2019年度の時点で4位の『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)以外の年間トップ10はすべてドラマが占めていたが、2022年1-3月期もトップ20中、実にドラマが18作ランクインし、ドラマ以外でトップ20入りしたのは13位の『水曜日のダウンタウン』(TBS系)と14位の『人志松本の酒のツマミになる話』(フジテレビ系)の2番組のみという結果だった。

2022年は『ミスなか』『silent』のフジドラマがTVerを席巻

 この“ドラマのTVer”において昨年躍進を見せたのがフジテレビだ。TVerでのドラマ人気は2021年、1-3月期は『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』、4-6月期は『リコカツ』、10-12月期は『最愛』とTBSドラマが番組再生数ランキング首位をほぼ独占しており、さらに『リコカツ』『最愛』で歴代1位再生数を更新するなど勢いがあった。しかし2022年は1-3月期に菅田将暉主演のフジテレビ系月9ドラマ『ミステリと言う勿れ』が、『最愛』の2280万再生を大幅に塗り替える3384万をたたき出して記録を塗り替えた。

 そして10-12月期には川口春奈主演の木曜ドラマ『silent』が新記録を連発。TVerでの総再生数などはまだ発表されていないが、他の無料配信プラットフォームもあわせた見逃し配信の再生数累計は6191万回に達したという。TVer単体でも、ドラマでは100万を超える例がこれまでなかったお気に入り登録者数で全民放・全番組でナンバーワンとなる240万を突破するという爆発ぶりを見せたほか、第1話、第2話、第4話ではそれぞれ443万、489万、582万と、単話での再生数の歴代最高記録を更新していった。第4話および「第4話エピソード0」までで累計2400万回再生となっており、残る7話の再生数がそれぞれ400万回ずつと仮定すると、累計で5000万回を突破する見込みだ。これは1年前の『最愛』が打ち出した記録の倍以上の数字になる。

 フジテレビドラマの活況は、TVer、FOD無料・GYAO!などの無料配信プラットフォームにおける「広告付き動画配信(AVOD)」で“無双”となったことからも伝わってくる。2022年の年間のAVOD配信で、フジテレビは再生数がおよそ6.8億、ユニークブラウザ数が約4500万、総視聴時間が約2億9300万で、すべての指標で民放1位を獲得。クールごとでも、2022年度第1四半期(2022年4~6月)、第2四半期(2022年7~9月)、第3四半期(2022年10~12月)の3期連続で全指標1位だった。フジテレビは2022年4月より水曜22時にドラマ枠を復活させており、ドラマの作品数自体が増えている影響もあるが、『ミステリと言う勿れ』と『silent』の絶好調が大きいといえるだろう。フジテレビが運営する動画配信サービスFODの有料会員数は、2022年11月18日に100万人を突破したが、「『silent』の爆発的大ヒットが会員数増加を後押し」したと発表されている。

 『silent』のTVer人気は、フジテレビ側がTVerを強く意識した戦略を取っていたことも大きい。視覚障がい者向けに音声解説を入れた「解説放送版」や、後追いの視聴者向けのダイジェスト版に加え、テレビ放送の本編で描かれていない「第4話エピソード0」や、主演の川口のインタビューなどを中心とした「ドキュメンタリー」全3章といったTVer独占コンテンツの配信、さらには川口ら出演者たちがトークする特別番組を最終回放送前日に生配信したりと、TVerへの施策は手厚かった。

TVerは「日々訪れたくなるプラットフォーム」になれるのか

 右肩上がりで成長を続けるTVerは今や、世帯視聴率以上に注目される指標となりつつあるが、そのTVerが目指す先は「新たなチャンネル」かもしれない。昨年12月9日からは、MBSの制作によるTVer完全オリジナル番組『最強の時間割~若者に本気で伝えたい授業~』の独占無料配信をスタート。日経電子版などがスポンサーにつき、半年にわたって全24エピソードの配信が予定されている。また、TVer社の若生伸子社長は、目的型の視聴に留まらない「日々訪れたくなるプラットフォームになる」ことを目指すとしている。

 ただ、課題はある。さんいん中央テレビの『かまいたちの掟』が2021年のTVerアワードで特別賞に輝くなど、ローカル局との取り組みも積極的に強化しており、レギュラー配信中の番組は500番組以上までに拡大されてはいるが、まだまだ未配信のものも少なくない。特にNHKは、2019年から「試行的な位置づけ」で一部の番組を配信してはいるが、本当にごくごく一部である。受信契約の確認を必要とする「NHKプラス」を促進することで受信契約者数を増やしたい狙いがあるものと見られるが(TVerでのNHKの番組視聴は受信契約の対象外)、NHKを含めた横断的な配信プラットフォームとなることをTVerに求める声は少なくないだろう。

 収益面の問題はどうか。1月1日に放送された『あたらしいテレビ2023』(NHK総合)では、Twitterでの反響と視聴率が大きく乖離する番組の問題についても触れられていたが、なぜ視聴率が悪いのが問題視されるかといえば、視聴率が悪いとスポンサーからの出稿が鈍り、広告収入に直接関わってくるからだ。TVerで稼げればいいのだが、フジテレビの発表では、2022年度第1四半期(2022年4~6月)のCM売上高およそ400億2500万円に対し、無料配信による売上高は9.9億円にとどまっている。40分の1の規模なのだ。無料で見られるTVerは「再放送」扱いで、スポンサー料も割安になってしまうことが原因だとされている。

 もっとも、希望はある。TVer社は昨年、2022年3月時点の売り上げが前年比およそ20倍まで増加したと発表。2022年通期の決算は売上高で前期184.6%増で、大幅な増収・黒字転換に成功している。TVer広告においては、1年ほど前には「広告主の認知」が課題として挙げられていたが、テレビなどと違ってどういった層が視聴しているかを分析できるためにユーザー属性に合ったターゲティング広告が可能なこと、“CM飛ばし”ができないこと、テレビよりも視聴に専念する傾向が強いことなどの優位性もあり、広告主からの認知も広がり、TVer広告は成長中だという。

 また先述のように、無料見逃し配信で圧倒的な支持を得た『silent』はFODの有料会員数の増加に貢献したし、見逃し配信での盛り上がりも影響して、世帯視聴率は初回6.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)から、最終話では9.3%と右肩上がりの有終の美を見せた。TVerがもたらす副次的効果は決して小さくないはずだ。

 『silent』の爆発的ヒットにより、TVerの成長もさらに加速している。2023年、TVerの存在感がますます増すのは間違いないだろう。

新城優征(ライター)

ドラマ・映画好きの男性ライター。俳優インタビュー、Netflix配信の海外ドラマの取材経験などもあり。

しんじょうゆうせい

最終更新:2023/01/07 17:07
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