ハリウッドタブーを暴く『SHE SAID/シー・セッド』 「裸の王様」が裁かれるとき
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ハーヴェイを「裸の王様」にしたのは誰か?
アンデルセン童話で有名となり、権力者を揶揄する表現となった「裸の王様」だが、ハーヴェイ・ワインスタインを「裸の王様」にしてしまったのは誰だったのか?
アンデルセン童話では詐欺師コンビから「愚かな人の目には見えない」衣装を手渡され、王様は裸になって街を行進する。ハーヴェイを「裸の王様」にしてしまったのは、数々のヒット作を放ち、多くのアカデミー賞を受賞してきたというハリウッドにおける価値基準だ。実績さえ残せば、人格面での問題はスルーされてきた。ハリウッドという巨大産業の価値観が、有能な映画プロデューサーだったハーヴェイを「裸の王様」へと変え、増長させてしまった。
ハリウッドきってヒットメーカーとしてハーヴェイは祭り上げられ、アカデミー賞をはじめとする権威ある映画賞の数々が彼にお墨付きを与えてきた。富と名声にまみれたハーヴェイは、自分が「裸の王様」であることが分からなくなってしまう。
その結果、才能と情熱に溢れた多くの若い女優や女性スタッフたちが、ハーヴェイの喰いものにされてきた。ミーガン&ジョディという部外者が告発するまで、ハリウッドは自浄する力を失ったままの状態だった。
本作を撮ったのは、女優でもあるドイツ出身のマリア・シュラーダー監督。 Netflixドラマ『アンオーソドックス』(20)では厳格なユダヤ教徒の閉鎖的コミュニティーからの脱出を図る女性の葛藤を描き、高い評価を受けている。本作でも、ハリウッドの古い因習に抗おうとする女性たちの苦闘ぶりをクローズアップしてみせている。
ミーガンとジョディは多忙な記者業と母親としての育児との両立に努めている。精神的にも肉体的にもハードだし、ハーヴェイが雇った元諜報員たちによる嫌がらせにも頭を悩ませることになる。ミーガンは産後うつとも闘っていた。でも、取材を途中で投げ出せば、権力者が弱者を喰いものにし続けるという悪しき図式を黙認してしまうことになる。
被害に遭った女性たちも同じだった。いま告発しなければ、自分を苦しめた映画界の悪習は、子どもたちの代まで残ることになるはずだ。子どもたちには遺恨を残したくない。そんな母親としての想いが、彼女たちに闘う勇気を与える。
物語のクライマックス、ハーヴェイが弁護士らを伴って「ニューヨーク・タイムズ」へと乗り込んでくる。編集部サイドが記事を公表する前に、ハーヴェイ側に反論する機会を用意したのだ。女性記者とハーヴェイは直接対峙することになる。
編集部に現れたハーヴェイを観た人は、「なんで、こんなひとりのオッサンにみんな怯えていたんだ?」と不思議に思うのではないだろうか。映画界では絶対的権力者だったハーヴェイだが、映画界から一歩外へ出れば、滑稽な「裸の王様」に過ぎなかった。
裸の王様はハリウッドだけでなく、日本の映画界や芸能界にもいるし、ショービジネス以外の分野にも存在するはずだ。おかしな習慣や明らかに間違った指示には「 NO」とはっきり伝えない限り、裸の王様は今後もぞろぞろと現れてくるだろう。
『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』
原作/ジョディ・カンター、ミーガン・トゥーイー 製作総指揮/ブラッド・ピット 監督/マリア・シュラーダー
出演/キャリー・マリガン、ゾーイ・カザン、パトリシア・クラークソン、アンドレ・ブラウアー、ジェニファー・イーリー、サマンサ・モートン、アシュレイ・ジャッド
配給/東宝東和 1月13日(金)より全国公開
©Universal Studios.All Rights Rights Reserved.
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