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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.719

ハリウッドタブーを暴く『SHE SAID/シー・セッド』 「裸の王様」が裁かれるとき

映画業界の悪習「キャスティング・カウチ」

ハリウッドタブーを暴く『SHE SAID/シー・セッド』 「裸の王様」が裁かれるときの画像2
示談済みの被害女性は守秘義務があり、実名を明かすことができなかった

 キャスティング・カウチという言葉は、ハリウッドで古くから囁かれてきた。日本語で言うところの「枕営業」だ。キャスティング権を握るプロデューサーや映画監督との性行為に応じることで、新人女優は役をもらうことになる。映画業界に長年はびこる悪しき因襲で、その実態を明かすことは業界タブーとなっていた。

 ミーガンとジョディの取材に対し、女優たちはいかに映画界で女性が不当な扱いを受けているかを語るが、ハーヴェイの実名を出すことには躊躇する。ハリウッドの絶対的権力者となっているハーヴェイに反旗を翻すと、業界内で干されることになりかねないからだ。また、性被害者として自分の名前を公表すれば、どんな中傷を浴びるか分からない。

 取材を重ねても、なかなか記事にできないというもどかしい時間が過ぎていく。カトリック教会における児童虐待の実態を暴いた『スポットライト 世紀のスクープ』(15)の記者たちと同様に、地道な裏取り調査が続くことになる。

 ハーヴェイのもとで働いていた女性スタッフたちも、同じような性的虐待に遭っていた。だが、彼女たちも口を閉ざしたままだった。弁護士を介して、示談金を受け取っており、守秘義務が生じているためだった。弁護士は裁判に負けると報酬がもらえないので、示談で済ませることを望んだ。高額の示談金は「口止め料」となっており、示談金を受け取った被害者たちはプライドもズタズタにされていた。

 誰もがキャスティング・カウチは悪習だと分かっていた。だが、やめようと言い出すことができない。本作の原作となった『その名を暴け―#MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い―』(新潮社)を読むと、弟のボブ・ワインスタインやワインスタイン・カンパニーの幹部たちが、ハーヴェイがセックス依存症状態だったことを知りながら野放しにしていたことにも触れてある。ハーヴェイはまさに「裸の王様」だった。

 グウィネス・パルトローが暮らす豪邸へ取材に行く際、ミーガンとジョディは共に記者らしくないガーリーなファッションで現れる。大手新聞社に勤める2人にとっても、ハリウッドの人気女優は憧れの存在なのだ。お互いに「おのぼりさん」っぽい衣装だと気づき、苦笑することになる。映画業界とは縁のない2人だったからこそ、ハーヴェイが「裸の王様」であることを記事にすることができた。

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