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眞栄田郷敦、『エルピス』が代表作となるのは必至…主演・長澤まさみをしのぐ22歳の熱演

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ドラマ公式サイトより

 長澤まさみ主演のフジテレビ系月10ドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—』が、今夜放送の第10話で最終回を迎える。実在の冤罪事件などをベースにしているとはいえ、いざ始まると予想を超える骨太さで、政治やメディア、権力者への抵抗と自らの内省を描く傑作だった。また長澤まさみ演じる女性アナウンサー・浅川恵那が主人公でありながらも、浅川に並ぶ「2人目の主人公」とも言えるキャラクターの活躍も話題となった。それが、冤罪疑惑の解明に没頭する岸本拓朗(眞栄田郷敦)だ。

村井が岸本に託したもの

 2002年から2006年にかけて神奈川県・八飛市で3人の少女が次々に殺された「八頭尾山連続殺人事件」の容疑者として逮捕され、死刑判決が下された松本良夫(片岡正二郎)に冤罪の可能性があるとして、浅川と岸本が事件を追うところから始まるこのドラマ。第8話では、経理部へと異動させられた岸本がひとりで真相追及に没頭していく中で、大門副総理(山路和弘)の最大の後ろ盾となっている本城建託の長男・本城彰(永山瑛太)が真犯人である可能性が浮上、さらに2018年に殺された中村優香(増井湖々)が本城彰がもらったストールをDNA鑑定にかけたところ、3つの研究機関から、2006年に殺された井川晴美(葉山さら)のスカートから検出されたDNAと同一であるとの結果が出る。松本死刑囚が冤罪であるという決定的な証拠だった。

 しかし、岸本はこれを報道部に持っていくも、『ニュース8』ディレクターの滝川雄大(三浦貴大)は取り合わない。やむなく、「週刊潮流」の編集長・佐伯(マキタスポーツ)を紹介してもらい、取り上げてもらうことになるが、その矢先、『ニュース8』が八飛市で起こった未成年売春あっせん事件を報じ、その中で八頭尾山連続殺人事件の被害者・中村優香が従業員リストに名前が載っていたと報じた。世間の関心は冤罪疑惑から、あっという間に被害者女性が風俗で働いていたという話題に移る。佐伯はこれを受けて記事を差し替え、冤罪疑惑の記事はお蔵入りとなってしまった。そして岸本が大洋テレビから突如解雇されてしまう……というところで第8話は終わった。

 第9話冒頭では、2週間前に時間軸を巻き戻し、浅川が先の未成年売春あっせん事件のニュースを読むにいたる経緯が明かされた。浅川は、中村優香が風俗で働いていたことなど以前から警察は掴んでいたはずなのに、このタイミングで公表されるのは不自然だと主張。「週刊潮流」でスクープが出ることを知り、世論を誘導するための警察側からの印象操作ではと疑うが、プロデューサーの佐々木(神尾佑)に一蹴され、浅川はそのままニュースを読むことになったのだった。無力感を覚えた浅川は、岸本に連絡をすることはなかった。

 そして時が戻る。岸本が自主退社したものだと思っていた浅川は、クビだったこと、さらに浅川とも面識のある「八飛署の刑事」にはめられた可能性を岸本が疑っていたことを知る。不審に思い、同期の滝川に懲戒免職の事情を探ってもらうと、贈賄と脅迫の疑いだった。岸本が、情報を得ようとして八飛署の刑事に金を渡そうとし、そのやり取りを録音し、さらに情報を求めたという。その刑事は金は受け取らなかったが、岸本から脅迫された状況を録音しており、大洋テレビ上層部に持ち込んだ……と滝川は説明する。「え、どういうこと? だって、その刑事はお金を受け取らなかったんだよね。じゃあ岸本君がそのときの会話を録音して脅迫するって、おかしくない?」と矛盾を指摘する浅川だったが、滝川は「でもまあそうらしいよ」と気にする様子を見せず、「番組を背負っている立場なんだから」と、浅川に岸本と距離を置くよう求めるのだった。

 一方、岸本が経理部に異動させられた際に子会社に出向させられた元番組プロデューサーの村井喬一(岡部たかし)は、大門副総理の娘婿で、秘書を務めている大門亨(迫田孝也)に接近していた。実は村井は報道部にいた時代、亨の内部告発に協力したことがあった。大門の警察庁時代の部下だった亨だが、真面目で正義感が強く、2017年に当時総務大臣だった大門が自分の派閥の議員のレイプ事件をもみ消した際、これを告発しようとしたのだ。村井は、大門が直接もみ消しの指示をしたとの証言を撮り、放送しようとしたが、放送直前に大門が副総理に就任。上層部が急に弱腰になり、亨にも迷いが生まれてしまう。それでも粘っていた村井だったが、急に報道を外され、深夜バラエティ『フライデーボンボン』に飛ばされたのだった。

 村井は大門に因縁があったのだ。『フライデーボンボン』で浅川と岸本による「八頭尾山連続殺人事件」の調査報道を流させたのは、大門副総理が報道部に圧力をかけていたことを知っていたからだったが、強行突破してしまったことで子会社に出向させられた。ふたたび亨に接触したのは、村井なりの意趣返しの意味もあるのだろう。村井は、岸本と亨を引き合わせ、岸本にすべてを打ち明けたあと、証言VTRを岸本に渡す。村井は亨に「若いからこそ書けるんですよ。気力と体力があって。かつバカじゃないとできやしません、こんな仕事」と説明していた。「一生にあるかねぇかのでかいスクープ」を、岸本になら託せると思ったのだ。

 自責の念があった亨は大門の秘書を辞め、離婚し、今度こそ告発する覚悟を決めていた。岸本は「週刊潮流」に持ち込むが、佐伯は慎重に進めろと言う。焦る岸本だが、「これは裏を取らなきゃだめだ」「これは正真正銘の真実として書かなきゃいけない。権力っていうのは瞬殺しかないんだよ。いかに一撃で倒すかだ。もたもたしてたら反撃ぶっ食らう」と佐伯は“戦い方”を説き、岸本はレイプ被害者の遺族から証言を取りに動くことに。だが、その間に亨は帰らぬ人となってしまった。

 村井は亨の葬式に向かい、大洋テレビの元エース記者で、大門に可愛がられている斎藤正一(鈴木亮平)がマスコミに遺族を映すなと注意しているのを見て、「ほんとは病死じゃなくて自殺だから? てかもっと、ほんとは自殺じゃなくて他殺だから?」などと揺さぶりをかけ、「引き返すなら今じゃないかな。でないとこの先はもう……」と言ってヘラヘラした態度をやめ、斎藤を睨みつけながら「戻ってこれねえぞ」と忠告する。その後、知り合いの記者から大門のコメントが取れたと聞き、音声を聞かせてもらうも、「彼の誠実さにはどれだけ助けられてきたかわからない」などと白々しく語る大門の言葉に、ついに村井の怒りが爆発。記者のICレコーダーを踏みつけて壊したあと、生放送直後の『ニュース8』のスタジオにいきなり現れ「何が報道だ!」と叫びながら暴れ始めるのだった。

岸本が“希望”になるのか

 第9話も名シーンが盛りだくさんの『エルピス』だったが、中でも、指示にしたがって加害者を守ったことで被害者を自殺に追い込んでしまった「自分の罪深さ」を亨が「背負い続けるしかない」と語ったのを受け、友人へのいじめを見過ごした経験のある岸本も、迷いながら「僕も……昔、自殺した友達のことを思いながら、この仕事をやっています」と、お互いが抱えているものを打ち明けあったシーンは特筆すべきものだった。SNS上の視聴者も「岸本くん役の眞栄田郷敦さん、長澤まさみさんより目立ってない?」「眞栄田郷敦の演技ほんま最高だな……」など、その存在感に圧倒されていた様子。第1話の“温室育ちのお坊ちゃん”から、別人のように内面的な厚さを増した岸本を見事に表現した眞栄田郷敦の評判はうなぎ登りだ。

 村井によって、見ないふりをしていた中学生時代の“罪”と向き合ってからの岸本は、ジャーナリズムにのめり込むようになり、第5話以降は浅川以上に“主人公”的な存在感を放っている。松本死刑囚が逮捕された決定的な要因となった目撃証言が偽証だったという証言も、松本死刑囚の冤罪を決定づける被害者の遺品のDNA鑑定も、岸本の粘り強い取材のたまものだった。その姿を見てきたからこそ村井は、墓場まで持っていくつもりだった大門亨の証言VTRを岸本になら託せると思ったのだろう。亨も、岸本の真摯な姿勢に対し「僕は少し神様に感謝しました。このことを、そういう……岸本さんという人に預けることができるのだと思うと、ふっと……真っ暗闇の中に一筋、細い光がさしたような気持ちです」と微笑んでいた。村井、そして亨にとって、岸本こそが希望の光なのだろう。最終回の予告映像には浅川が岸本に抱きつき、「君、最高!」と喜ぶ場面があったが、ふたたび心と体を病みつつある浅川にとっても岸本は希望となるのだろうか。

 それにしても、番組に出ている女の子に手を出そうとしたことをネタにヘアメイクのチェリー(三浦透子)に脅され、やむなく冤罪事件を追うことになった、仕事のできない“ボンボン”の若手ディレクターの頃から、岸本の顔つきは回を追うごとにどんどんと変化していった。中学時代の苦い経験を思い出したときの幼さもあった悲痛な顔、母親までも突き放して真実の追及に没頭していく、やや狂気じみた目つき、浅川にスクープを褒められて喜ぶ顔、言い訳をして自分と一緒に事件を追ってくれない浅川を侮蔑する顔、証言をしてくれる人たちに向ける真摯な眼差し……。弱冠22歳、役者デビューとなった映画『小さな恋のうた』(2019年公開)の撮影からはまだ4年しか経っていないが、ここまで多彩な表情を見せ、かつ視聴者を引き込む演技を見せた作品は他にないだろう。『エルピス』は俳優・眞栄田郷敦の代表作になったと言い切ってもいいのではないか。

 そして最終回。掴んだ“真実”が、文字通り命がけのものであることを突きつけられた岸本はここからどう戦っていくのか。浅川はふたたび立ち上がるのか。そしてやはり、大門の後継者候補となる斎藤が立ちはだかるのか。どんなクライマックスが待っているのか、まったく予想もつかない『エルピス』最終回は今夜放送だ。

■番組情報
月曜ドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—
フジテレビ系毎週月曜22時~
出演:長澤まさみ、眞栄田郷敦、三浦透子、三浦貴大、近藤公園、池津祥子、梶原 善、片岡正二郎、山路和弘、岡部たかし、六角精児、筒井真理子、鈴木亮平 ほか
脚本:渡辺あや
音楽:大友良英
主題歌:Mirage Collective「Mirage」
プロデュース:佐野亜裕美、稲垣 護(クリエイティブプロデュース)
演出:大根 仁、下田彦太、二宮孝平、北野 隆
制作協力:ギークピクチュアズ、ギークサイト
制作・著作:カンテレ
公式サイト:ktv.jp/elpis

東海林かな(ドラマライター)

福岡生まれ、福岡育ちのライター。純文学小説から少年マンガまで、とにかく二次元の物語が好き。趣味は、休日にドラマを一気見して原作と実写化を比べること。感情移入がひどく、ドラマ鑑賞中は登場人物以上に怒ったり泣いたりする。

しょうじかな

最終更新:2022/12/27 13:27
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