昭和世代はなぜフィリピンに惹かれるのか? 格差社会の幸福論『ベイウォーク』
#映画 #パンドラ映画館
山下財宝などの都市伝説が今も残るフィリピン
もうひとりの主人公は、高級マンションで不自由なく暮らす関谷正美さん(取材開始当時62歳)。日本では派遣社員として働いていたが、年金生活を見据え、日本よりも物価の安いフィリピンで新築のマンションを購入した。独身の関谷さんはカジノで大当たりし、KTV(カラオケ付きのキャバクラ)で働く若い女性と仲良くなったことを語る。バラ色のシニアライフを満喫する関谷さんだった。
「飲む、打つ、買う」が手軽に楽しめるフィリピンでのセカンドライフは、関谷さんにとっては長年の夢だった。ところが、カメラを手にした粂田監督がマンションを訪ねる度に、関谷さんの表情は沈んでいく。交際していたKTV嬢とうまくいっていないらしい。ギャンブルで儲けたお金を投資したバイクタクシーのレンタルビジネスにも失敗してしまった。
自分に近寄ってくるフィリピン人は、みんなお金目当てのように関谷さんは感じているようだ。マンションに篭りがちになる関谷さんだった。その日その日を辛うじて生き延びる赤塚さんの路上生活と、マンションで暮らす関谷さんの安定した生活が、とても対照的に映し出される。
粂田「昨年公開した『なれのはて』ではマニラのスラム街で暮らす4人の日本人を紹介しましたが、当初は赤塚さんと関谷さんも含め、6人を描く4時間のドキュメンタリー映画にするつもりだったんです。4時間では上映してくれる映画館が見つからないこともあり、困窮邦人をテーマに絞った『なれのはて』を先に公開することにしました。同時期に取材していた赤塚さん、関谷さんもとても印象に残る方たちだったので、新たに編集した『ベイウォーク』ができたんです」
気ままに生きているように見える赤塚さんだが、映画の中盤からある人物を追っていることが分かる。赤塚さんが全財産を失うきっかけとなった日本人だ。赤塚さんはホテルの前に座り込み、その日本人の動向をチェックしている。
粂田「赤塚さんが追っていた人物は、日本ではM資金詐欺師として知られていたそうです。フィリピンにはその手の怪しい儲け話が今でもたくさんあるんです。太平洋戦争中に山下奉文将軍が隠したと言われる山下財宝を掘り当てようとしている日本人やフィリピン人たちもいます。僕も『あと20m掘れば財宝が手に入る。お金を出さないか』と声を掛けられたことがあります」
M資金とは、GHQが占領下の日本で接収し、今も極秘運用されているとされる膨大な資金をめぐる都市伝説。阪本順治監督が『人類資金』(13)として映画化したこともある。山下財宝がらみのトラブルも、フィリピンでは後を絶たない。財宝を本気で掘り出そうとする者もいれば、噂話をネタにして詐欺行為を働く者もいる。発展途上国であるフィリピンに、夢とロマンを求めて渡ってくる日本人は少なくないようだ。
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