トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > ボクシングで“会話”する岸井ゆきの主演映画
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.717

岸井ゆきの主演『ケイコ 目を澄ませて』 主人公の台詞は、たったひと言だけ

リング上で発露される、言葉にはならない感情

岸井ゆきの主演『ケイコ 目を澄ませて』 主人公の台詞は、たったひと言だけの画像3
ろう学校時代の友人との手話での会話に、ケイコは穏やかな表情を見せる

 岸井ゆきのはブレイク作『愛がなんだ』(19)や『神は見返りを求める』(22)など、コメディエンヌとしての人気が高いが、3カ月間のボクシングトレーニングと手話の練習を積んだ本作でのシリアス演技も目を見張るものがある。

 いわゆる美人女優ではなく、アクションものをやるにも小柄な岸井ゆきのだが、どんな役でもひたむきに演じる姿が魅力的だ。安藤サクラ主演作『百円の恋』(14)などでボクシング指導にあたった松浦慎一郎が劇中のトレーナー役も兼ねて、岸井のトレーニングに付き添っている。

 三浦友和演じる会長が、ケイコのことを尋ねる記者にこう答える。

「才能はないかなぁ……。小さいし、リーチもないし、スピードもない。でも、人間としての器量がある」

 共演者である岸井のことを評しているかのようだ。その人の生き方が反映されるボクシングと俳優業は重なる部分があるように思う。

 パンチが鮮やかに決まれば気持ちいい。だが、殴られれば当然だが痛い。ボコボコにされれば、戦意を失ってしまうことになる。ボクシングも、言葉によるコミュニケーションも一緒だ。自分のしゃべりたいことだけを一方的にしゃべっても、ずっと黙っていても、コミュニケーションは成り立たない。むき出しの魂と魂がぶつかり合うことで、初めてそこに何かが生まれる。

 傷つくことを恐れずに、リングに上がるケイコ 。ダウンされても立ち上がり、ケイコは言葉にはならない感情を発露する。そのとき、彼女はこの世でもっとも気高い生き物となる。

 誤解を恐れずに言えば、『ケイコ 目を澄ませて』は胸を熱くするボクシング映画でもなければ、涙を誘う障害者感動ドラマでもない。言葉では表現することができない、生きていく上で大切なものがあることを教えてくれる物語だ。ケイコがその大切なものを追い詰めていく姿を、我々は目を澄ませて見つめるしかない。

『ケイコ 目を澄ませて』
原案/小笠原恵子 脚本/三宅唱、酒井雅秋 監督/三宅唱
出演/岸井ゆきの、三浦誠己、松浦慎一郎、佐藤緋美、中原ナナ、足立智充、清水優、丈太郎、安光隆太郎、渡辺真紀子、中村優子、中島ひろ子、仙道敦子、三浦友和
配給/ハピネットファントム・スタジオ 12月16日(金)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー
©2022 映画「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/COMME DES CINÉMAS
happinet-phantom.com/keiko-movie

【パンドラ映画館】過去の記事はこちら

最終更新:2022/12/15 19:46
123
ページ上部へ戻る

配給映画