トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > エンタメ > アイドル  > 三宅健がソロ作で更新するアイドル像

三宅健『NEWWW』が聞かせる「成熟したV6との連続性」と「新しいアイドル像」

三宅健『NEWWW』が聞かせる「成熟したV6との連続性」と「新しいアイドル像」の画像
三宅健『NEWWW』(通常盤)(MENT RECORDING)

 YonYon、80KIDZ、TENDRE、D.A.N.、土岐麻子、glowingdog、sogumm、butaji、Miru Shinoda(yahyel)、Micro(Def Tech)――これらはすべて、三宅健の初ソロ作品『NEWWW』に参加したミュージシャンである。コアな音楽ファンにしてみれば、ちょっとしたフェスでも開催できそうな好ラインナップである一方、三宅健ってこういう音楽が好きだったのか、と驚いた人も少なくないのではないか。V6を含め、アイドルグループとは“異なる個性の集合体”であり、ゆえにそのパブリックイメージとは違った音楽的嗜好を持つメンバーがいるのは不思議なことではない。ただ、それがファン以外にまで伝わる機会は案外少ないものである。

 もっとも、グループ時代の作品にも、今作へのヒントはあった。V6といえば「愛なんだ」や「WAになっておどろう」といったポジティブなダンスナンバーが代表曲として認知されるが、その一方でグループの成熟に伴い、音楽性を大胆に拡張していった。特にAmPmらによるコライトで制作された全編英詞の「All For You」(2019年)、田尻知之(note native)と本澤尚之(Language)の共作「MAGIC CARPET RIDE」(2021年)などで見せたシックなクラブミュージック路線は、『NEWWW』の世界観に近いものがある。また2021年にリリースされたV6最後のオリジナルアルバム『STEP』における三宅プロデュースの楽曲では、ロックバンド・Tempalayとのタッグが実現している。彼らの持つサイケなエッセンスをポップに昇華した「分からないだらけ」で見せた不穏さとメロウネスの共存したサウンドも、新作に通じる部分がありそうだ。

 そんな流れを踏まえて発表された『NEWWW』では、更に刺激的なダンスミュージックに挑戦している。冒頭を飾る「Destination」でタッグを組んだのは、YonYonと80KIDZ。2組が以前コラボした80KIDZ「Your Closet feat. YonYon」を三宅が聴いていたことからオファーがあったのだという。この曲と同様、「Destination」も日本語・英語・韓国語を自在に行き来するエレクトロナンバーで、同じ布陣で制作されたもう1つの楽曲「Day by Day」との連作となっている。

 TENDREプロデュースによる「PULSE」はベースの音色が耳に残るアダルトなR&Bナンバー。TENDREの人気曲「RIDE」あたりの作風に近いだろう。D.A.N.が手がけた「FALL」は、ヴォーカル・櫻木大悟のファルセットをフィーチャーしたミニマルなクラブミュージックだ。ほぼ英詞で構成され、後半わずかに繰り出される日本語のフレーズはよく注意していないと気付かない。歌モノポップスとして成立するギリギリのラインではと思うほどの没入感あるダンスナンバーとなっている。

 「SUNSHINE」は韓国のシンガーソングライター・sogummの書き下ろし曲。三宅は彼女の楽曲「야유회(yayou hoi)」が好きだそうで、今回は同曲を共作していたglowingdogも制作に参加している。また作詞にはK-POPファンとして知られ、V6の楽曲も手がけていた土岐麻子が名を連ねた。ボサノバ調のAメロからエレクトロサウンドへの展開は大胆だが、チルなサウンドは通底しており、心地良いグルーヴに身を委ねられる楽曲だ。

 続く「dreamy reality」はシンガーソングライター・butajiと、yahyelのメンバーとしても活動するMiru Shinodaによるコライト。butajiは近年ドラマ主題歌にもクレジットされており、『大豆田とわ子と三人の元夫』の「Presence」や、『エルピス—希望、あるいは災い—』の「Mirage」で抜群のポップセンスを見せている注目株だ。「dreamy reality」は夜の空気漂うメロウなR&Bナンバー。美しいメロディに乗る緻密なコーラスワークにも耳を奪われる。

 通常盤のみ収録の「Answer」は、V6作品にも参加していたDef TechのMicroと、Def TechのプロデューサーでありギタリストのNagachoが手がけている。本作中唯一のストレートなメッセージソングで、〈勝たなくていい 負けなければいい〉と聴き手にそっと寄り添いつつ、優しさだけでなく熱さも兼ね備えた人生讃歌となっている。極限まで削ぎ落としたシンプルなサウンドだからこそ、楽曲のメッセージがよりくっきりと浮かび上がってくる。

 R&Bやエレクトロサウンドをベースにしつつもチルな空気を纏ったサウンドスケープは、いわゆるベッドルーム・ポップの温度感に近いかもしれない。例えばその代表選手とも言えるクレイロ(Clairo)や、英語もスペイン語もフラットに楽曲に取り入れているクコ(Cuco)といった海外のアーティストとも共通する部分がありそうだ。現行のポップミュージックとの同時代性を意識しつつも、タイトルの『NEWWW』にある「3つのW」はVが6個と解釈することができ、グループ時代からの接続も感じさせる。V6(=WWW)の流れを継承しつつ、よりクリエイティブを深化させた新しい(=NEW)アイドル像を打ち出す。まさに名は体を表す、納得の1枚である。


※2023年4月12日に配信リリースされた

椎名和樹(音楽ライター)

音楽ライター。ロック、J-POP、アイドル、ヴィジュアル系などジャンルレスな知識と豊富なライブ経験を生かして執筆中。研究対象はフェス、ランキング、音楽番組、90年代カルチャーなど。ハンバーガーマニアの顔も。

Twitter:@sheena_kazuki

しいなかずき

最終更新:2023/04/12 01:04
ページ上部へ戻る

配給映画