トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > エンタメ > ドラマ  > 『エルピス』主題歌とエンディングの仕掛け

長澤まさみ『エルピス』主題歌のオートチューンの意味と、エンディング映像の“変化”に注目

エンディング映像も毎度細かに変化――ケーキが指すものとは

(2/2 P1はこちら
 また、この主題歌が流れるエンディング映像も、“考察”したくなる要素が多い。浅川(長澤まさみ)がケーキをつくる料理コーナー的な映像で、途中までは楽しげだが、オーブンを開けるタイミングで映像が青暗く変化し、浅川の表情も固まる。オーブンの中には失敗したケーキがあり、ちょうどそこで「あまりに強い火に身を滅ぼす異教徒」という歌詞が流れる。そしてケーキを入れる箱がクローズアップされ、「株式会社パンドラ」と「消費期限 22.10.24」といった文字が見える。最後に、チェリーこと大山さくら(三浦透子)が暗い部屋で、浅川の映ったテレビを見ている――という構成。消費期限が示しているのは番組の初回放送日だ。

 このエンディング映像も毎度細かに変化している。わかりやすいのはチェリーで、第1話ではスウェット姿のチェリーがフォークを使ってケーキを食べていたが、第2話では白い半そでブラウス姿で、ケーキを手に持ってただ見つめるだけ。第4話と第5話では手でわし掴みにしてケーキをほおばっているが、それぞれ服装が異なり、第4話は第1話のもの、第5話は第2話のときのものとなっている(※第3話はエンディング自体がなかった)。また、浅川がオーブンを開けたとき、失敗したケーキらしきものがブクブク泡立つ映像がこれまで挟まれていたが、第5話ではカメラマンの映像に差し変わっていた。

 チェリーは10代の頃、家庭内で虐待を受けて家を抜け出し、八頭尾山連続殺人事件の犯人として逮捕されることになる松本死刑囚に保護されていた元家出少女であり、岸本に冤罪疑惑を追及させることになる、物語の出発点となる人物だ。第2話では、チェリーの14歳の誕生日に松本が買ってきたショートケーキが、人生初の誕生日ケーキだったことが明かされる。松本の無罪を信じるチェリーにとってケーキは重要なアイテムだ。

 そしておそらく、エンディング映像のケーキは「報道」の暗喩だろう。浅川は踊ったりしながら明るくケーキをつくろうとするが、オーブンを開けるとそこにはとてもケーキとは思えない得体のしれない物体がある。そしてまるでカビが生えたかのような、腐っているようなケーキに寄った映像に続き、(第5話ではカメラマンの映像に差し変わったが)何かがブクブク泡立つ映像が挟まれる。

 浅川は第2話で、「信頼されるキャスターになりたい」という夢を抱いて大洋テレビに入社し、入社3年目にして報道番組のサブキャスターに抜擢されるも、そこは「そんな夢は一生かなえられない」場所だったと振り返り、「自分があたかも真実のように伝えたことの中に、本当の真実がどれほどあったのか」とこぼしていた。この第2話では、マスメディアの大衆を煽る報道が、容疑者のひとりに過ぎなかった松本を「ロリコン男」に仕立て上げ、家出少女をかくまっていた松本の逮捕につながったという報道加害についても触れられていた。第1話でお行儀よくケーキを食べていたチェリーが、第2話ではそのケーキを見つめるだけだったのは、報道番組の実情を知り、いろいろなことを諦めていた浅川が「飲み込みたくないものは、飲み込まない!」と意を決して立ち上がり、キャスター時代の“過ち”に向き合う姿を象徴していたのではないだろうか。この解釈が正しいかはともかくとして、たった90秒のエンディングに、これだけ考察したくなる要素が溢れているのは確かだ。

 第5話では、最高裁で確定した死刑判決を覆すことのできるかもしれない決定的な証言を岸本が手に入れた。全10話だとすればここからが後半戦。さらに大きくストーリーが動き出すと見られる『エルピス』だが、エンディング映像と主題歌の変化にも着目すると、より一層楽しむことができそうだ。

新城優征(ライター)

ドラマ・映画好きの男性ライター。俳優インタビュー、Netflix配信の海外ドラマの取材経験などもあり。

しんじょうゆうせい

最終更新:2023/03/14 14:18
12
ページ上部へ戻る

配給映画