トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 地味だけど、だからこそ泣かされる朝ドラ
朝ドラWATCHコラム『舞いあがれ!』第6週

『舞いあがれ!』リアルな“どこかにいそうな人たち”と駆け抜ける青春の軌跡と奇跡(第6週)

『舞いあがれ!』リアルな“どこかにいそうな人たち”と駆け抜ける青春の軌跡と奇跡(第6週)の画像
イラスト/渡辺裕子

 土曜日に流れた予告を見て「今週も泣くだろうな」と予想はしていましたが、まさか「なにわバードマンたちがたこ焼きを焼いている」なんてシーンでいちばん大泣きするとは思っていませんでした。テレビ画面にはじゅーじゅーとおいしそうなたこ焼きが大写し。明日テスト飛行本番を迎える舞ちゃん(福原遥)のために部員みんながかいがいしく焼いているのに、空気を読まずにひとりで自分のためだけに野菜を焼く刈谷先輩(高杉真宙)。この朝ドラを見ていない人には「どうしてそんなところで泣くの?」と思うような場面説明だと思うんですが、その「どうしてこんな地味な話で泣かされるのかわからない、だけど涙が出てしまう」が連続してやってくるのが『舞いあがれ!』のすごさなんですよ。

 でも、本当のことを言うと、「スワン号の奇跡」という週タイトルを見た時は「数カ月トレーニングしただけなのに、まさかの奇跡で新記録出しちゃうとは、さすが朝ドラのヒロイン!」みたいな話になったらいやだな、それは『舞いあがれ!』っぽくないなあと思いました……作ってる人たちに申し訳ない、そんな簡単なドラマにするわけがないのに。

 パイロットをやると言い出した時に無理だとみんなに反対された通り、奇跡は起きず、舞ちゃんは10分ほど飛んだだけで琵琶湖に着水する。でも、実はそこまでにすでに奇跡は起きている。野菜をほおばりながら刈谷先輩が語ったように、なにわバードマンたちが困難を乗り越えてお互いのために懸命にがんばった、そのことがもう奇跡。うん、あなたたちの努力と奇跡(軌跡、と言ってもいい)を今までずっと見てきたから気持ちがわかるよ、よかったね……。と、舞ちゃんを胴上げするなにわバードマンたちに泣きながら拍手してたんですけど、よく考えたら彼らの姿を放送で見ているのはわずか2週間と少しなんですよね。でも、春から夏、そして次の春まで、一年くらいは自分もずっとあの狭い部室にいたような気持ちがするし、夏には一緒に琵琶湖で走ったような気もします。留年し続ける空さん(新名基浩)のことをもう何年も見ていた気も。

 彼らから感じる、この濃密な「本当にそこにいる人」っぽさはなんなんでしょうね。ケータイにつけている変な魚のストラップや飛行機の絵のTシャツなど、持ち物や仕草などすべてから「この人はこんな先輩、こんな同期」ってはっきりわかるんですよ。人間の輪郭線がくっきりしてる感じ。スタッフのみなさんと役者さんたちの力で、「大学のどこかにいる人たち」としてとてもリアルに作り上げられている。リアルだから彼らのことを「仲間」のように思って、彼らの夢を力いっぱいテレビのこちらから応援してしまう。一緒に泣いてしまう。3回生たちがいなくなった部室の広いこと。部員みんなとお別れする日が、今からもうさみしいなあ。

 そして舞ちゃんの夢は「飛行機が好き」「模型飛行機を飛ばしたい」「人力飛行機を飛ばしたい」「自分が人力飛行機のパイロットとして飛びたい」をクリアして「パイロットになるために航空学校に行きたい」まで来た。しかし大学に入って一年なのに、それはお父ちゃん(高橋克典)やお母ちゃん(永作博美)に許してもらえるのか。ここ数日、難しい話をしている様子のふたりも気に掛かる。それでも刈谷先輩が言うようにしつこく夢へと向かい、自分の気持ちを友だちやお兄ちゃん(横山裕)へ話せる舞ちゃんと違い、幼なじみのふたり・貴司くん(赤楚衛二)と久留美ちゃん(山下美月)が暗い気持ちを自分の中だけに閉じ込めている様子なのもまた気に掛かる。ここまでずっと泣きっぱなしだった『舞いあがれ!』、でもそれは感動したり安堵したりの暖かい涙ばかりだった。どうか次の涙も「夢がかなってよかったなあ」と言いながら流せる涙でありますように、悲しみの涙になりませんように。

■番組情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!
[NHK総合] 月~金 8:00-8:15 / 月~金 12:45-13:00(再放送)
[BSプレミアム・BS4K] 月~金 7:30-7:45 / 土 9:45-11:00(再放送)
[見逃し配信] NHKプラス

出演:福原遥、高橋克典、永作博美、横山裕、高畑淳子、赤楚衛二、山下美月、山口智充、くわばたりえほか
作:桑原亮⼦、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number「アイラブユー」
語り:さだまさし
制作統括:熊野律時、管原浩
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐
プロデューサー:上杉忠嗣、三鬼一希、結城崇史
広報プロデューサー:堀之内礼二郎、齋藤明日香
制作:NHK
公式サイト:nhk.or.jp/maiagare

渡辺裕子(イラストレーター/コラムニスト)

テレビ大好きイラストレーター。
テレビや映画について書いてるnote → http://note.mu/satohi11

わたなべひろこ

最終更新:2023/02/04 23:38
ページ上部へ戻る

配給映画