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日刊サイゾー トップ > エンタメ > ドラマ  > 秋ドラマ、期待作とガッカリ作3選

『silent』『エルピス』『PICU』…一番の期待作は? 秋ドラマ序盤ランキング

ガッカリドラマ3位 『ファーストペンギン!』水曜22時~(日本テレビ系)

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『ファーストペンギン!』(ドラマ公式サイトより)

〈あらすじ〉
家なし、金なし、仕事なし……。人生崖っぷちの若きシングルマザー・岩崎和佳(奈緒)は5才の一人息子・進(石塚陸翔)を連れて、寂れた港町・汐ヶ崎に移り住んできたばかり。地元のホテルで仲居として働いていたある日、漁船団「さんし船団丸」の社長である漁師の片岡洋(堤真一)と出会う。彼女の機転と働きぶりに感心した片岡は、和佳に1万円で「浜の立て直し」を頼み込む。未知なる“漁業の世界”に飛び込むことに尻込みする和佳だが、魚嫌いのはずの進が喜んで魚を食べている様子に驚き、自身も魚の美味しさに感動。依頼を引き受け、真面目に漁業について学び、魚の直販ビジネス「お魚ボックス」を提案するが、片岡たちは渋い顔。漁協や仲買をすっ飛ばすため、彼らを怒らせてしまうと、このアイデアは猛反対を受けてしまうのだが……。

 森下佳子の「オリジナル脚本」だが、坪内知佳『ファーストペンギン シングルマザーと漁師たちが挑んだ船団丸の奇跡』(講談社)を原作としており、山口県の萩大島で実際に漁獲した魚を直接消費者に届ける自家出荷をスタートさせた実在のシングルマザー社長の自伝が元となっている。ヒットメーカーの森下佳子脚本に、奈緒と堤真一の共演ということで期待したのだが……。

 実話を元にしているので、いずれ成功することはわかっており、その過程をどうドラマとして描くかということだと思うが、毎話かならず最後に解決するのはわかっていても、その過程が非常にイライラさせられるのだ。最後の爽快感よりも途中までのイライラの分量が多すぎて、後味がよくない。特に、堤真一演じる片岡が、毎回のように和佳の提案に乗っては手のひら返しをし……という展開は、最終的に和解するのだろうとわかっていても(いや、むしろわかっているからこそ)苛立ちが募る。「ウソみたいに爽快」という宣伝文句に偽りあり。

 頑固で、女性を馬鹿にしていて、旧来の慣習に疑問を持たず、自分たちから何かを変えようともしないが不満は抱えている……そういう漁師たちを相手に苦戦の連続だったことは事実なのだろうが、これはドキュメンタリーではなく、フィクションの連続ドラマなのだ。コメディ的演出もいまひとつ噛み合っていない印象だが、主人に降りかかる「理不尽」の量のあまりの多さ(そしてそれがほとんど実話だろうということ)に対する暗澹とした気持ちとの相性が悪いのかもしれない。原作をうまくエンタメとして昇華しきれていないのではというのが第5話までを観た率直な感想だ。主人公の知佳――というより、おそらくモデルとなった坪内知佳氏のバイタリティやアイデアには素直に感心させられるし、そうした基本の部分は十分におもしろいのだが……。日曜劇場的な作風のほうがマッチしていたのかもしれない。

 あと、おそらくドラマオリジナルなのだろうが、「先生」(渡辺大知)の同性愛者設定は必要だったのだろうか。セクシャルマイノリティのキャラクターが当たり前のように登場することはいいのだが、どうにもこの物語では「田舎」を強調するための装置として使われているだけに感じられた。たった1話の中で(一定の)理解を得られ、和解できるぐらいなら、特になくてもいい設定だったのではと思う。この設定が今後ちゃんと生かされると共に、大団円において最高の「ウソみたい」な爽快感が打ち出されることを期待したい。

 なお、ガッカリ3位は本田翼主演『君の花になる』(TBS系)と迷った。『チェリまほ』や『恋せぬふたり』の吉田恵里香の脚本とはとても信じられない出来で、ここからとても挽回していくようにも思えないのだが、吉田恵里香脚本という以外はもともと期待できる要素が薄かったため、次点とした。吉田氏は売れっ子になって忙しすぎるのだろうか……当て書きらしき宮野真守のキャラクターはいきいきとしているのだが。

ガッカリドラマ2位 『ザ・トラベルナース』木曜21時~(テレビ朝日系)

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『ザ・トラベルナース』(TELASA配信ページより)

〈あらすじ〉
術場で医師を補助し、一定の医療行為を実施できる「NP(=ナース・プラクティショナー)」の看護資格を持つトラベルナースの那須田歩(岡田将生)は、“ある人物”からの要請で日本へ帰国し、看護師が次々と辞めて慢性的な人手不足が深刻な問題となっている民間病院「天乃総合メディカルセンター」で働くことに。だが、同じ日から働くことになっている“院長お墨付きのベテラン看護師”は姿を見せず、院内のヒエラルキーなどお構いなしの歩の態度は、外科部長・神崎弘行(柳葉敏郎)らを憮然とさせる。そしてスター外科医の神崎が執刀医を務める手術で、患者の異変を察知した歩は手術の中止を主張し、神崎を怒らせて手術室から追い出されてしまう。そこにミステリアスな男・九鬼静(中井貴一)が白衣を着て現れ……。

 『ドクターX ~外科医・大門未知子~』『七人の秘書』の中園ミホによるオリジナル新作。岡田将生との「W主演」のクレジットでないことが不思議に感じられる中井貴一を始め、俳優陣の演技は見応えがあり、非常に安定感のある作品だ。そういう意味では安心して見ていられるが、しかし“スーパーナースが病院内の問題を型破りな手法で解決していく”というストーリーはかなり手垢にまみれており、特に第1話は、セルフオマージュのセリフも始め、『ドクターX』の看護師版という印象を超えるものではなかった。また、主人公が「医師ではなく看護師」という設定は軸として機能しているが、今のところ「トラベルナース」という立場であることがほとんど生かされておらず、ただ大病院に能力は高いがクセのある看護師が他所からやってきただけ(要は「どこの医局にも属さないフリーランス、すなわち一匹狼のドクター」の代替)という印象でもある。

 さらに言えば、看護師の病院内での待遇の悪さや、女性の医師・看護師へのセクハラ等を取り上げながらも、「医者か金持ちの患者との結婚ばかりを狙う腰掛けナース」のキャラクターに弘中スミレという、あからさまに弘中綾香を彷彿とさせる名前を付け、「また弘中が……」と批判的に描いているのは、一体どういうつもりなのだろうか。仮に弘中アナ本人の了承を得ていたとしても(役者本人は弘中アナを意識して演じているという)、自局の大ヒットコンテンツ『ドクターX』シリーズを生んだ人気脚本家の新作に対して、一社員がNOと言えるだろうか。ジョークのつもりなのだろうが、少々意地が悪すぎるように感じるし、今のところただのノイズにしかなっていない。このあたりも残念ポイントだ。

ガッカリドラマ1位 『アトムの童(こ)』日曜21時~(TBS系)

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『アトムの童』(Paravi配信ページ)より

〈あらすじ〉
安積那由他(山﨑賢人)は、かつて「ジョン・ドゥ」という名前で活動し、インディゲームの名作『ダウンウェル』を生んだ天才ゲーム開発者。素性不明なことから「ゲーム業界のバンクシー」とも称されていたが、現在は自動車整備工場で働き、ゲーム開発からは離れていた。 そんな中、老舗玩具メーカーの「アトム玩具」は海外との価格競争などの影響で、廃業の危機を迎えていた。そこで一発逆転の経営再建をはかり、ゲーム制作へ参入すべく、アトム玩具の一人娘である富永海(岸井ゆきの)はジョン・ドゥを探し始める。資金もノウハウも持たないアトムは、藁にも縋る思いでジョン・ドゥとコンタクトを取ろうと奔走するが……。

 日曜劇場の今度の舞台は(インディ)ゲーム業界。しかしストーリーは少年マンガか韓国ドラマのようで、玩具メーカーが何のあてもなく事業転換して一発当てようとするあたり、リアリティはまったくない。リアリティがないドラマはあっていいが、それが日曜劇場にふさわしいのかというと少々疑問だ。

 「ゲーム業界を舞台に、若き天才ゲーム開発者が大資本の企業に立ち向かう姿と、周囲の人たちとの関わりによって成長していく姿を描く」という物語。その敵対する企業「SAGAS(サガス)」は、SEGAみたいな社名だが、ロゴといい、検索サービス大手でオンラインゲーム事業に乗り出す「ゲーム業界の黒船」という設定といい、Googleみたいな会社だ。主人公側のアトム玩具は、老舗玩具メーカーというところは任天堂っぽいが、カプセルトイが主力商品で、人気マスコットキャラはなぜか「ファミ通」のネッキーという謎すぎる世界線(ちなみに「協力」欄にあるのはPlayStation)。かと思うと、ジョン・ドゥが制作したとされる『ダウンウェル』は実在のゲームである。たとえば任天堂とソニーの確執をフィクションとして描くというのであればわかるが、どうもそうではなさそうだし、中途半端に現実の要素が混じり、そこがどうにも腑に落ちないというか引っ掛かりを生んでいる。なぜネッキーなのだ。ゲーム業界を描こうといろんなところに協力を依頼していくうちに、見返りとして劇中に登場させなければならないものがアレコレと増えた……と思わず想像してしまう。それにしてもネッキー?

 そもそもこの手のドラマで不思議なのは、ネガティブな要素ではマスコミ報道が使われるのに、主人公側がマスコミを利用しようという発想に乏しいところだ。主人公の那由多たちは、SAGAS創業者の興津(オダギリジョー)に騙されるようなかたちで自分たちが開発したゲーム『スマッシュスライド』の権利を奪われるという過去があるのだが、仮に当時の興津がまだ無名で、ジョン・ドゥも知る人ぞ知る存在だったとしても、今や興津は日本最大のIT企業を生んだ実業家であり、ゲーム事業に乗り出している。契約書の写しと共に『スマッシュスライド』をだまし取られたと週刊誌に訴える手だってあるだろう。

 あるいはアトム玩具の社屋全焼の件。ガチャガチャの前には那由多を始め、多くの人が並んでいるシーンがあり、アトム玩具のカプセルトイには熱心なファンがついていることがわかる。であれば、いくら南が元銀行員とはいえ、いきなり銀行に相談するとか投資家向けのプレゼン大会に出場するとかではなく、クラウドファンディングで廃業寸前であることを訴えて資金集めをするという発想は出てこないものだろうか。それこそ那由多は社屋全焼のニュースを見て駆けつけたぐらいだ。クラウドファンディングはゲームにおいても珍しくない手法だし、「ゲーム業界のバンクシー」ことジョン・ドゥが制作する新規ゲーム開発の費用という名目なら、多額の資金が集まるだろう。普通に融資をしたいと申し出る企業が出てくることだって期待できる。ゲーム開発をしているのにバックアップを取っていない点もしかり、いちいち展開と設定が雑なのだ。

 ちなみに『君の花になる』の主人公もそうだが、“話を展開させるために強引な行動を取るお節介女子”というキャラクターは誰が演じてもうるさいだけだな……とも感じた。『君の花になる』は火曜22時枠のTBSドラマだが、この『アトムの童』は日曜劇場というより、どちらかといえば、エドテックでユニコーン企業を目指す“お仕事風”ドラマの『ユニコーンに乗って』寄りであり、つまり火曜22時枠っぽい。日曜劇場にするならば、もう少しだけゲーム開発やビジネス面についてしっかり描いてほしかったところだ。

新城優征(ライター)

ドラマ・映画好きの男性ライター。俳優インタビュー、Netflix配信の海外ドラマの取材経験などもあり。

しんじょうゆうせい

最終更新:2022/12/16 17:08
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