映画愛溢れるロードムービー 全国のミニシアターを巡る『あなたの微笑み』
#映画 #パンドラ映画館
地方にミニシアターが残っているのは日本だけ
各地の映画館を巡り、リム・カーワイ監督はあることに気づいたそうだ。首里劇場の金城政則館長、別府ブルーバード劇場の岡村照館長、小倉昭和館の樋口智巳館長は、いずれも三代目だ。1918年(大正7年)に開館した大黒座の三上雅弘支配人は四代目になる。小さい頃から先代や先々代が働く姿を見て育ち、映画に親しみ、浮き沈みのある映画業界で生きていく厳しさを知っている。
自前の劇場であるため、テナント料を払わずに済んでいることも大きいが、業界のシビアさを理解した上で経営を受け継ぎ、劇場経営の深い喜びを知っている人たちでもある。代々受け継いできたものを自分も守りたい。そんな映画界の聖者たちに支えられ、地方の映画館は辛うじてこれまで生き残ってきた。家族経営という点では、新しいジグシアターも同じだ。
カーワイ「僕の故郷であるマレーシアには、もうミニシアターは存在しません。すべてシネコンに変わってしまいました。台湾もおそらくそうでしょう。韓国のソウルや釜山、中国の北京や上海といった大都市にはまだミニシアターが残っているかもしれませんが、地方にはもう存在しないはずです。小さな地方都市にもミニシアターや昔ながらの映画館が残っているのは、日本だけでしょう。地方の映画館がこのまま消えてしまっていいのか、この映画をご覧になった方たちに考えてほしいんです」
映画館は孤独な人間に優しい、現代のユートピアだ。入場料さえ払えば、映画の上映中は物語の登場人物たちと繋がり、孤独感から解放される。見知らぬ他の観客たちと、笑いや涙を共有することにもなる。とても緩やかな繋がりだが、そんな関係性が心地よい。また、ミニシアターには、個性的なプログラムを組む支配人や舞台あいさつに訪れる映画監督たちとの距離が近いという魅力もある。
各地の映画館を訪ねて回った渡辺監督は、旅の終わりにある決断を下す。自分が撮る映画のことしか考えず、あんなにうざかった渡辺監督が、映画館という聖地を守る守護天使のような存在となっていく。映画序盤とはまるで異なる、シュールなエンディングだ。映画界が、そして地方都市が、大きな変換期にあることを、ミニシアターという視点から捉えた映像記録として、リム・カーワイ監督が撮った『あなたの微笑み』は記憶されることになるだろう。
『あなたの微笑み』
監督・プロデューサー・脚本・編集/リム・カーワイ
出演/渡辺紘文、平山ひかる、尚玄、田中泰延
配給/Cinema Drifters 11月12日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラム、12月3日(土)より大阪シネ・ヌーヴォほか全国順次公開
©cinemadrifters
anatanohohoemi.wixsite.com/official
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