映画愛溢れるロードムービー 全国のミニシアターを巡る『あなたの微笑み』
#映画 #パンドラ映画館
うざいキャラだった主人公が、やがて巡礼者に
リム・カーワイ監督は、日本のミニシアターで古今東西のさまざまな映画を鑑賞し、教養を身につけたそうだ。監督デビュー後は、自身の作品を東京や大阪のミニシアターで上映してもらったが、地方のミニシアターや街の古い映画館にまでは足を伸ばす機会はなかなかなかったとも語る。
カーワイ「各地の映画館の支配人たちは、ロケハンで初めて訪れた僕を温かく受け入れてくれました。ブルーバード劇場の照さんは90歳でしたが、夜からの撮影にも元気に応じてくれました。ジグシアターの柴田修兵支配人は『ハッピーアワー』(15)に出演した俳優でもあり、奥さんの三宅優子さんと手作りで映画館をつくり、夫婦で劇場経営しています。大黒座の支配人・三上雅弘さんは、美味しいコーヒーを淹れて、僕をもてなしてくれました。みなさん、とても個性に溢れ、魅力的な人ばかりです。脚本なしで、渡辺さんとの即興劇を演じてもらいました。豊岡劇場のオーナーだった石橋秀彦さんは『映画には出ない』と言うことだったので、『COME & GO』にも出てくれた作家の田中泰延さんに支配人役で出演してもらっています。金城さんが今年亡くなったのには驚きました。小倉昭和館が火事に遭ったのも非常に残念です。あの劇場の雰囲気を再現するのは難しいでしょう。映画の中にその姿を残すことが、僕にできることでした」
世間知らずで、口だけ番長だった渡辺監督だったが、各地を訪問するうちに、地方の映画館の厳しい状況を痛感するようになる。その一方、映画館のある地方都市は穏やかさの中に文化的な香りを感じさせ、渡辺監督のざらついた心を癒してくれる。最初はうざかった渡辺監督が、次第に各地の映画館を回る巡礼者のように思えてくる。
カーワイ「実際の渡辺さんは礼儀正しく、物静かな方です。今回の映画はコメディタッチの楽しいものにしたかったので、うざくて厚かましいキャラを演じてもらいました。本人もそう思われてしまったら申し訳ないですね。脚本なしで撮り進め、どんな展開になるのか分からずにロケを続けたのですが、コミカルなキャラだった主人公が、次第にシリアスさを感じさせるようになっていきました。これは演出ではありません。渡辺さんが各地の映画館を巡り、渡辺さん自身が感じていた心情が自然に出てきたものだと思います」
孤独な旅をする渡辺監督は、夜の別府や鳥取の砂丘で幻想的な美女(平山ひかる)と遭遇する。リム・カーワイ監督いわく「映画には欠かせないミューズ」だそうだ。新しい脚本が書けずに頭を悩ませていた渡辺監督だったが、ミューズに導かれるように旅を続け、彼自身の生き方が物語となっていく。映画初出演となる平山ひかるが初々しい表情に得意とするダンスパフォーマンスを交え、ミューズ役を神々しく演じてみせている。
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