映画愛溢れるロードムービー 全国のミニシアターを巡る『あなたの微笑み』
#映画 #パンドラ映画館
名物支配人たちがアドリブで映画出演
渡辺監督が最初に訪れるのは、沖縄県那覇市にある「首里劇場」。1950年に開館したこの劇場は、まるで昭和時代にタイムスリップしたかのようなレアな空間だ。天井は雨漏りし、客席のシートは破れ、廃墟さながらの「昭和遺構」として知られている。自作の上映のお願いに訪れた渡辺監督は、琉球ハブ拳法の使い手である館長・金城政則さんとなぜかカンフー対決するはめに。観客のいない劇場内で、2人は子どものように無邪気に戯れる。
続いて渡辺監督が訪問したのは、大分にある「別府ブルーバード劇場」。突然やってきた渡辺監督に、丁寧に対応するのは名物館長の岡村照さんだ。撮影時90歳、館長歴50年以上になる照さんが、劇場の歴史をにこやかに語る。北九州市にある「小倉昭和館」は、昔ながらの35ミリフィルムの上映で地元の人たちに愛されている映画館だ。鳥取県湯梨浜町にある「ジグシアター」は、2021年に開館したばかり。丘の上にある廃小学校を利用し、おしゃれなミニシアターに改装している。
兵庫県豊岡市にある「豊岡劇場」では、ついに渡辺監督作品の特集上映が組まれることに。さらに渡辺監督は北海道へと渡り、札幌市の「サツゲキ」、人口1万3000人の小さな町・浦河町にある「大黒座」にまで足を伸ばす。
ここまで読んで気づいた人もいると思うが、これらの映画館は現在は閉館、休館に追い込まれたところが少なくない。首里劇場は金城館長が2022年4月に亡くなり、閉館を余儀なくされた。小倉昭和館は隣接する旦過市場の火事によって、全焼してしまった。再建を目指しているが、目処はまだ立っていない。兵庫県北部にある唯一の映画館・豊岡劇場は、コロナ禍によって休館状態。サツゲキは運営会社が民事再生法を申請し、営業は続いているものの厳しい経営状態にある。
リム・カーワイ監督は大阪を拠点に活動しており、大阪三部作となる『新世界の夜明け』(12)、『Fly Me To Minami ~恋するミナミ~』(13)、『COME & GO』を撮っている。日本語の達者なカーワイ監督に、『あなたの微笑み』の制作内情を語ってもらった。
カーワイ「僕はこれまで香港や大阪などで映画を撮ってきましたが、バルカン半島で撮影した『どこでもない、ここしかない』(18)や『いつか、どこかで』(21)もあります。大阪三部作のように、バルカン半島のロケ作品も三部作にしたいと考え、ある映画監督が事件に巻き込まれ、バルカン半島からトルコまでを逃避行するロードムービーを企画したんです。ところがコロナのために海外への渡航が難しくなってしまった。そこで沖縄から北海道まで旅すれば、同じくらいの距離になるなと考えたんです。脚本は用意せず、渡辺さんにすべてアドリブで演じてもらっています」
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事