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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > ロックの枠に留まらない矢沢永吉の音楽性
あのアーティストの知られざる魅力を探る TOMCの<ALT View>#20

矢沢永吉とソウル~AOR~シンセ・ファンク いま改めて注目すべき“ロックスター”の音楽的冒険とは

TR-808の導入と、シンセ・ファンク化する矢沢

矢沢永吉とソウル~AOR~シンセ・ファンク いま改めて注目すべき“ロックスター”の音楽的冒険とはの画像3
85年作『YOKOHAMA二十才(ハタチ)まえ』

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 1980年代の音楽界を席巻したリズムマシン「TR-808」。イエロー・マジック・オーケストラをはじめとするニューウェイヴの音楽家に愛され、その後このサウンドを全面的に取り上げたマーヴィン・ゲイ「Sexual Healing」(‘82)のヒット後はR&B界にも浸透。ジャム&ルイスのプロデュース作品を筆頭に、当時のスタイリッシュなR&B(日本でいう「ブラコン」ことブラック・コンテンポラリー)には欠かせない機材になっていった。

 かねてよりR&B的な音楽性を取り入れていた矢沢は、こうした潮流にもすぐさま対応。「LONG DISTANCE CALL」「棕櫚の影に」(ともに84年作『E’』収録)、「SORRY…」「瞬間(いま)を二人」(ともに85年作『YOKOHAMA二十才(ハタチ)まえ』収録)などでは、TR-808が前面に出た編曲を楽しめる。

 シンセサイザーが前面に出たファンク・チューン、いわばシンセ・ブギー的な楽曲では、現代のシティポップ・リバイバルの曲調ど真ん中のリズムアレンジが聴ける「浮気な午後の雨」(85年作『YOKOHAMA二十才(ハタチ)まえ』収録)、TOTOやエルトン・ジョンの諸作で活躍したキーボード奏者ジェームズ・ニュートン・ハワードが参加した「SOMETHING REAL」(’87年作『FLASH IN JAPAN』収録)などが代表格だろう。このあたりのサウンドは現在の矢沢のパブリックイメージからは最も遠いもののひとつだろうが、まさにいま再評価されるべき内容である。

 こうしたサウンドを経て発表された東芝EMI移籍作『共犯者』(’88)ではアレンジャーやミュージシャンに海外勢を多数招き、同時代を意識したロック方面へと回帰していく。とはいえ以後も音楽的冒険は続き、レゲエを取り入れた「ミス・ロンリー・ハート」(94年作『the Name Is…』収録)や、ハウスビートが聴ける異色作「リナ」(2000年作『STOP YOUR STEP』収録)などでは、矢沢のサウンド・アレンジ面への飽くなき好奇心を感じることができる。

日本的なロックスター像の影に隠れたサウンドの多様性

 冒頭で述べたように、矢沢は日本的なロックスター像を確立した功績や革新性が高く評価されてきた一方、そのサウンド面の多様性や、時代に沿った積極的な変化・冒険を行ってきた歴史については長く振り返られずに来たように思える。2000年代以降、日本国内の“和モノ”DJシーンや海外の音楽マニアを通じ、日本産ポップスはさまざまな角度からの再評価がなされてきたが、その明確なロックのパブリックイメージや、そうしたイメージをまとって今なお現役で活動を続けているためか、ロックの枠のみに留まらない矢沢永吉という音楽家の実像については、なかなか正当な目線からの評価を得るには至らなかったように思える。

 本連載ではこれまでも「B’z×シティポップ」「井上陽水×アンビエント」「小室哲哉×R&B」など、アーティストの知られざる側面や、本来もっと評価されるべき功績を取り上げ、先入観に捉われない音楽作品の楽しみ方を提案してきた。その中でも矢沢は、日本のポップス史を語る上で有力視される「はっぴいえんど史観」と対を成す存在として、今後その音楽性が一層深く掘り下げて語られるべきだと感じる。将来的に「キャロル~矢沢史観」が形成されていく上で、この原稿が何らかの補助的役割を担うことができたら心から嬉しく思う。

♦︎
本稿で紹介した楽曲を中心に、矢沢永吉のソウル/R&B~ファンクなどグルーヴィな楽曲をまとめたプレイリストをSpotifyに作成したので、ぜひご活用いただきたい

B’z、DEEN、ZARD、Mr.Children、宇多田ヒカル、小室哲哉、中森明菜、久保田利伸、井上陽水、Perfumeなど……本連載の過去記事はコチラからどうぞ

TOMC(音楽プロデューサー/プレイリスター)

Twitter:@tstomc

Instagram:@tstomc

ビート&アンビエント・プロデューサー/プレイリスター。
カナダ〈Inner Ocean Records〉、日本の〈Local Visions〉等から作品をリリース。「アヴァランチーズ meets ブレインフィーダー」と評される先鋭的なサウンドデザインが持ち味で、近年はローファイ・ヒップホップやアンビエントに接近した制作活動を行なっている。
レアグルーヴやポップミュージックへの造詣に根ざしたプレイリスターとしての顔も持ち、『シティ・ソウル ディスクガイド 2』『ニューエイジ・ミュージック ディスクガイド』(DU BOOKS)やウェブメディアへの寄稿も行なっている。
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とむしー

最終更新:2023/04/28 16:51
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