トニセンが切り開くジャニーズの新たな可能性 サニーデイ・サービス、グソクムズ、ミツメとのコラボの意味
#ジャニーズ #トニセン
20th Centuryの新曲「水曜日」は、ジャニーズの新たな可能性を感じる1曲だ。
MVではCRE8BOYが手がけたシュールなダンスがまず目に入るが、なんといってもこの曲、ジャニーズには珍しいインディーロック路線なのである。ギターリフを繰り返しながら徐々に熱を帯びていくような独特の空気感を放つこの楽曲を提供したのは、ロックバンド・ミツメだ。インタビューによると、トニセンの3人が気になるアーティストを出し合う中でミツメの名が挙がったのだという。演奏も彼らが行っているためバンドのサウンドを如実に反映した仕上がりで、素朴なようで緻密なアンサンブルが楽しめる。ジャニーズではなかなか見かけないクレジットに驚いたリスナーも多かったと思うが、井ノ原快彦は「僕らの範囲内に収まっている曲」と語り、グループにとって突然変異で出てきた曲というわけではないようだ。
日本のインディーロック・シーンと接近するトニセン
まずはこの曲に至るまでのトニセンの歩みを、簡単に振り返っておきたい。1995年にデビューしたV6のうち、年少組のComing Centuryに対して年長組3人で結成されたのが20th Century、通称トニセンである。当初はV6のアルバム内で楽曲を発表していた3人だが、1997年には単独でもCDデビューを果たした。2021年のV6解散後もトニセンのみ活動を継続し、今年に入ってからは5月、8月、10月とコンスタントに新曲をリリースしている。配信ゆえカップリングこそないものの、ここにきてV6時代よりもハイペースな活動を展開していることにはただただ驚かされる。
5月にリリースされた久々のシングル「夢の島セレナーデ」は、井ノ原と親交の深い曽我部恵一が楽曲を提供した。曽我部率いるバンド、サニーデイ・サービスはMVにも出演し、井ノ原と曽我部が仲睦まじく話す様子も収められている。
続く8月リリースの「風に預けて」は人気急上昇中の4人組バンド、グソクムズが提供した楽曲だ。ジャニーズ所属のグループが若手ミュージシャンをフックアップする例はこれまでにもあったが、今回はその中でも起用が非常に早い。その証拠に、筆者が今年6月に行われた『YATSUI FESTIVAL! 2022』で彼らのライブを観た際、フェス出演は初めてだと語っていた(昨年グソクムズの出演が決まっていたフェスが中止になったというコロナ禍ならではの事情もある)。 2022年10月現在、Wikipediaのページすらないという、早耳のリスナー止まりの段階でトニセンへの楽曲提供を果たしたのはかなりの大抜擢と言えよう。
このサニーデイ・サービスからグソクムズへの流れが、なんとも絶妙である。共通点として挙げられるのが、はっぴいえんどからの強い影響だ。はっぴいえんどと言えば松本隆、大瀧詠一、細野晴臣、鈴木茂の4人から成る、シティポップの源流とも言えるバンドである。サニーデイ・サービスにとっては結成にあたって大きな指針となったバンドで、『ARABAKI ROCK FEST.16』でははっぴいえんどのファーストアルバムを全曲カバーするライブを行っている。また曽我部はソロとしてもトリビュート盤に参加したほか、昨年日本武道館で行われたイベント『風街オデッセイ』では、久々にステージに立った本家との共演まで果たした。まさに生粋のフォロワーと言える存在だろう。一方のグソクムズもはっぴいえんどからの影響を公言し「ネオ風街」と称されることもあるバンドだ。フォーキーでありながらもシュガー・ベイブのような日本語ポップスとしての美しさも感じられ、90年代のサニーデイ・サービスが見せたはっぴいえんど再解釈のその先を提示するバンドであると思う。
そして最新曲を手がけたミツメは2010年代前半、スカートらと共に「東京インディー」と呼ばれたムーブメントの一翼を担ったバンドである。その後、2010年代も中盤になるとこのシーンは新たな局面に突入し、現在につながるシティポップ・リバイバルに発展していった。東京インディーは結果的にその下地を作ったとも言えるだろう。同時期に活躍したバンドがメジャー進出、あるいは解散などターニングポイントを迎える中でもミツメはマイペースに活動を続け、今も多くのファンを魅了し続けている。そんなミツメのメンバーはサニーデイ・サービスのファンを公言し、今年だけでも2マンライブに加え、両バンドのヴォーカリストである川辺素と曽我部恵一の2マンライブまで実現している。
トニセンが今年リリースした一連の楽曲には、このような音楽的一貫性がある。ジャニーズ作品には多彩なミュージシャンから楽曲提供を受けるケースがしばしばあるが、大抵その音楽的な方向性はさまざまで、ある特定の界隈をフィーチャーした流れができることはあまりない。しかもトニセンの場合は、単なる楽曲提供に留まらない、バンドとのコラボレーションのような制作を行っており、なおかつそれをメンバーが主体となって進めている点が非常に頼もしい。このペースでいけば1998年以来となるオリジナルアルバムにも期待してしまうわけだが、もし実現するならばとんでもないものができるのではないだろうか。現時点での3組のラインナップから連想すると、スカートやnever young beachあたりが順当だろうか。いや、まだまだ予想できない隠し球がありそうである。こうしてトニセン界隈のミュージシャンを並べていくと、そのうち日本のロックにおける1つのファミリーツリーができるのではないかと妄想してしまう。
デビューから27年ともなれば固定ファンに向けたクローズドな活動になっていてもおかしくない中、グループのイメージを更新するようなフレッシュな作品をリリースしているトニセンには、まだまだ新規のリスナーを開拓できる余地がありそうである。またそんな活動を自然体で楽しんでいる彼らには大人の遊び心も感じられ、キャリアの長いグループの理想型のような境地に至っている。グループ解散から1年、間もなくリリースされる三宅健の初ソロ作品も含め、V6メンバーはまだまだ音楽で我々を楽しませてくれそうだ。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事