バイオレンスホラー新時代の幕開け! 閉塞感を吹き飛ばす『オカムロさん』
#映画 #パンドラ映画館
コロナ禍における若者たちの生きづらさ
禁じられた言葉を口にすると、魔人が現れる――。そんな都市伝説をモチーフにした設定は、バーナード・ローズ監督のホラー映画『キャンディマン』(92)と共通するものだ。2021年にリメイク版も公開された『キャンディマン』は、米国における人種差別や女性蔑視といった社会問題が根底に流れていた。松野監督が撮った『全身犯罪者』と『オカムロさん』にも、現代の日本社会に渦巻く閉塞感が作品の中に漂っている。
Z世代にあたる松野監督はデジタルツールを巧みに扱い、生首シーンの合成などは、スマホアプリを使ってキャストの顔をスキャンし、リアルに編集してみせている。デジタルネイティブであるZ世代だが、コロナ禍で青春を過ごした世代でもある。松野監督は大学4年時にはキャンパスに通うことなく、アルバイトをしながら卒業制作の『全身犯罪者』の撮影・編集に勤しむ日々だったそうだ。松野監督がひとりで11人を演じ分けた『全身犯罪者』は、コロナ禍ゆえに生まれた怪作だった。
ちなみに『全身犯罪者』では、殺人鬼を追い詰める刑事役も松野監督が演じており、『オカムロさん』にもやはり刑事役で顔を見せている。こうした細かいサービス精神も、松野監督の持ち味だろう。
新型コロナウイルスのパンデミック期に学生時代を過ごした若者たちは、卒業式だけでなく、修学旅行や文化祭も取り止めとなり、同世代で共通体験をする機会を奪われたまま社会に出ることになってしまった。少し上の代が当たり前のように楽しんでいたコンパなどの街遊びもできず、仲のよい友達とじゃれ合うことすら新しい生活様式によってためらわれるようになってしまった。コロナ不況のために、就職がうまくいかなかった若者も少なくない。
Z世代が抱えるモヤモヤとした生きづらさ、閉塞感を、せめて映画の中だけでも思いっきりぶち破ってやりたい。『オカムロさん』のラストシーンは、松野監督たちZ世代が感じる鬱屈した感情を振り払う画期的なものとなっている。ヒロイン・すずが最後に発する叫びは、バイオレンスホラー新時代の幕開けを告げる咆哮に他ならない。
『オカムロさん』
監督・脚本・編集・VFX・出演/松野友喜人 アクション監督/三元雅芸 キャラクター造形/百武朋 音楽/Jun Goto
出演/吉田伶香、バーンズ勇気、伊澤彩織、内田寛崇、三元雅芸、石川翔鈴、安斉星来、吉田莉桜、立花紫音、桜田茉央、御法川イヴ、早瀬康広、角由紀子、吉田悠軌、長浜之人、爽香、月城まゆ、芹沢まりな、樹智子、六平直平
配給/エクストリーム R15+ 10月14日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、新宿シネカリテほか全国順次公開
©2022 REMOW
okamurosan.com
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