田中裕子、尾野真千子、安藤政信ら共演『千夜、一夜』 人はなぜ失踪するのか?
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安藤政信が演じる、失踪者の心情
美しい景観を誇る港町だが、少子高齢化が進みつつある地方都市のシビアな現実も抱えている。ひとり息子が独身のまま、仕事と酒だけで老いていくのを見るのがつらいと、白石加代子演じる春男の母親は、登美子に再婚を迫る。一方、失踪した夫について登美子に相談を持ち掛けた奈美だが、登美子のように待ち続ける自信がなく、異なる選択を考えるように。離島内でさまざまな思惑が交錯する。そんな折、フェリーで島を離れた登美子は、奈美の失踪した夫・洋司(安藤政信)の姿を街で見かけ、物語後半は意外な方向へと転んでいく。
仕事と家庭に恵まれながらも失踪した洋司役の安藤もまた、『キッズ・リターン』(96)などで注目を集めて売れっ子俳優となったものの、芸能界から一時的に姿を消していたことがある。久保田監督いわく「安藤くんは非常に純粋な心を持った人」とのことだ。あまりに純粋すぎて、どこか危うさも感じさせる安藤のキャスティングは、まさに適役だと言えるだろう。洋司役を通して、失踪した側の心情が描かれていく。
失踪をテーマにした『千夜、一夜』を撮り上げた久保田監督に、改めて「人はなぜ失踪するのか?」という質問に答えてもらった。
久保田「失踪する理由はさまざまでしょうが、おそらく理由もなく失踪してしまう人もいると思うんです。これは『千夜、一夜』の撮影に入る前に僕自身が感じたことなんですが、ふと消えてしまいたくなるという感覚があったんです。家族とうまくいっていても、幸せであればあるほど、お尻がむず痒くなるような感覚になってしまうんです。『自分はここにいてもいいんだろうか』『この幸せはいつまで続くんだろうか』と不安を感じる人もいるんじゃないでしょうか。ふいに自分を消したくなってしまう瞬間は、誰にでもあると思います。もちろん、そこで本当に失踪してしまう人と、思いとどまる人との間には大きな境界があるでしょう」
最後に久保田監督は「劇中の登美子は『肝心なこと、何も言わないから』という台詞を呟きます。自分にとっての大切な人に、きちんと大切な想いを伝えることができているかどうかが大事なんじゃないでしょうか」と語ってくれた。
大切な人の存在を一瞬でも見失い、伝えるはずだった大切な言葉をつい失念してしまったとき、人は失踪してしまうのかもしれない。
『千夜、一夜』
監督・編集/久保田直 脚本/青木研次 音楽/清水靖晃
出演/田中裕子、尾野真千子、安藤政信、白石加代子、長内美那子、田島玲子、山中崇、阿部進之介、田中要次、平泉成、小倉久寛、ダンカン
配給/ビターズ・エンド 10月7日(金)よりテアトル新宿、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー
©2022 映画「千夜、一夜」製作委員会
bitters.co.jp/senyaichiya
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