田中裕子、尾野真千子、安藤政信ら共演『千夜、一夜』 人はなぜ失踪するのか?
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ボタンの掛け違いで崩壊してしまう家族
劇映画は2本目となる久保田監督が本作の企画を思いついたきっかけは、北朝鮮に拉致された可能性を排除できない失踪者たちの名前を記載した「特定失踪者リスト」が2003年に公表されたことだった。8年がかりで本作を完成させた久保田監督に企画の経緯、内情を語ってもらった。
久保田「膨大な数の顔写真が掲載された失踪者のポスターを見て、圧倒されました。それからしばらくして知人と話し、リストに名前が出ていた当事者から『拉致されたわけではない。自分の意志で蒸発した』という内容の連絡が複数の家族にあったことを知ったんです。家族は、生きていたことを知って喜んだのと同時に、悩んだと思います。自分に何か問題があったんじゃないのかと。すごい葛藤でしょう。失踪者を待つことは、大変な物語ではないかと思えてきたんです」
ドキュメンタリー歴の長い久保田監督らしく、『千夜、一夜』は今の日本社会を反映したリアリティーのある物語となっている。だが、意外なことに詳細なリサーチは今回はせず、友人でもある脚本家の青木氏とのやりとりを重ね、物語を膨らませていったそうだ。
久保田「関係者を直接取材することはしていませんが、警察がホームページなどで公表している身元不明遺体のリストは何度も見ました。身元不明者の写真ではなく、スケッチ画が並んでいるんです。さまざまなスケッチ画を見ていると、いろんなことが想像されてくるんです。僕が思いついたアイデアや知っている情報は脚本の青木さんに伝えましたし、青木さんも雑学に詳しい男なので今回の企画に関する情報を独自に調べたようです」
本作を制作する上で、これまで多くの家族を取材してきたドキュメンタリー番組での体験が支えになったと久保田監督は話す。その一例として、1997年に放映されたNHKスペシャル『家族の肖像~激動を生きぬく(5)兵士たちの帰宅~グアテマラ』を挙げた。
久保田「グアテマラの内戦が終結するというニュースを聞き、山に篭っていたゲリラたちが帰宅するに違いないと考え、ひとりのゲリラ兵を密着取材しました。家族と再会し、再生していく感動の瞬間をカメラに収めようと狙っていたのですが、帰ってきた父親に対する家族の反応は冷たいものでした。父親が家を出たことで、家庭は経済的に苦しみ、娘たちは施設で暮らすことになったんです。チェ・ゲバラを敬う父親のイデオロギーのせいで、娘たちはつらい日々を過ごした。結局、家族の幸せのために戦ってきた父親が戻ってきても、家族は再生しませんでした。父親が誰もいない生家を訪ね、ひとりで泣くシーンを撮って番組を終えるしかありませんでした」
家族のことを想っていても、ちょっとしたボタンの掛け違いやコミュニケーション不足のために家族はあっけなく崩壊してしまう。内戦の続いた中南米や、家族のために懸命に働き続ける企業戦士を生み出してきた日本に限らず、世界中の家族に共通する問題だろう。(2/3 P3はこちら)
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