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朝ドラWATCHコラム『ちむどんどん』最終週

『ちむどんどん』過程は省かれ、担ぎ上げられた「暢子様」は最後まで…(最終週)

『ちむどんどん』過程は省かれ、担ぎ上げられた「暢子様」は最後まで…(最終週)の画像
イラスト/渡辺裕子

 「比嘉家の借金はいったい今いくらなのか、画面の隅に残額カウンターをつけてほしい」「時間をワープしすぎて混乱してきたから年表もほしい」 このコラムでぼやき続けていた問題、まさか「借金は倍にして返しました(金額は言わない)」「今は202X年です(はい?)」とすべてあやふやなまま終わりにされるとは思っていませんでした。兄妹が海に向かって叫んだらいきなり今までで最長のタイムワープ……という最終回でびっくりしすぎて『ちむどんどん』についての感想が頭からふっとんでしまったので、ここからは架空の人物「ちむどんさん」について書きます。

 居酒屋「ちむどんどん」で、酔った上司・ちむどんさんが「ぼくのかんがえた、さいこうのラブストーリー」を披露してるのを想像してください。ちむどんさんのラブストーリーは「好きです」などの言葉で気持ちを伝え合うのではなく、うっかり手が触れて「きゅん」、床に二人で倒れて「どきっ」、小屋に二人きりになって「どきどき」、そういう生々しい肉体的なものばかり。体と体が触れたら自動的に相手を好きになるはず、だから相手の気持ちを確認するより前に触ってもいい、と思っている。やめてほしいと言われてるのに好きな女につきまとって職場に現れたり、引っ越しまでしてしまう男を、一途だよね、と思っている。ストーカーだとは微塵も考えない。男は何度も恋をするけれど、女はただ一度の初恋を貫くべきだと思っている。複数の男とつきあう女はひどい目に遭って当然だし、離婚する女なんてもってのほかで、それを「許す」男は、器が大きくて心が健やかだと思っている。昔つきあっていた女は、別れてもずっと自分のことを好きなままで、それを今の妻も容認してくれて三人で仲良くできるはずだと思っている。

 「母親は息子が大好きだから、息子と結婚したいんでしょ?」 こう得意げに語る上司ちむどんさんに、どんな顔をしたらいいのでしょうか。テーブルに運ばれてきたトマトソースの鍋をひっくり返しておもしろそうに笑っているちむどんさんは、この料理にどれだけ手間がかかるかを知らない、料理をしない人だから。「やっぱり、家族との思い出が大切だよ」「しあわせになるには結婚しないと」などなど得意げに自説を語るちむどんさん。

 そんなちむどんさんが職場で気に入っている部下は、ちむどんさんの「好き」を体現する存在。ふるさとの家族を大切にし、結婚して子育てしながら問題なく働く、いつまでも(70歳近くになっても)若く元気な「女の子」。彼女が物語の主人公。暢子(黒島結菜)は、ちむどんさんによって持ちあげられ続け、最終的には「ちむどん教の教祖・暢子様」になってしまった。どっしりと座っているだけで周りの信者が「暢子様、材木をお持ちしました」「徹夜でそばをお作りします、もちろん無償で」と、回転寿司方式で次々としあわせを流してくれる。現金収入の方法があまりない自給自足で暮らしている集落に食堂を作って大成功するとは思えないけれど、暢子様ならできる。そして教祖・暢子様が信者の賢秀(竜星涼)や良子(川口春奈)と海に行き、神である父の賢三(大森南朋)に祈れば、医者が深刻な顔で首を振るほどの重病人・歌子(上白石萌歌)の病も、あっという間に治る。賢三神の姿が暢子にしか見えないのは、彼女が教祖である証拠。さすが暢子様。

 でも、「うちが自分でシークワーサーを取りたい!」と一生懸命ジャンプしていた、あの子はどこに行ってしまったのか。他の兄妹たちのために「うちが東京に行く!」と目に涙をためて笑顔を作った、あの子は。私は、あの「暢子」を、半年間応援したかっただけなのに。ちむどんさんに担ぎ上げられた「暢子様」を見上げるのではなく。

 ……この半年、ちむどんさんが「ちむどんどん」で語るドリームを、席も移動できずに延々と聞かされているような気持ちでした。出された沖縄料理や民謡について質問しても答えてもらえない。代わりに「借金がたくさんあったけど全部返したよ! 方法は言わない!」「レコードも出したよ、どうやったかは内緒!」と聞かされる。解放された今は、店の外で「……飲み直すか」とほっと一息ついてる感じ。見事に老けていった博夫(山田裕貴)、笑顔でパリで仕事をしているだろう愛ちゃん(飯豊まりえ)、料理への愛を無言で見せた矢作(井之脇海)。ちむどんさんの圧力に負けなかった彼らと「おつかれさまー」と乾杯したい。あ、優子(仲間由紀恵)の踊りと歌子の歌もすばらしかったですね。俳優さんたちみんな熱演でした。見ていた人も半年間、おつかれさまでした。乾杯!

■番組情報
NHK連続テレビ小説『ちむどんどん
[NHK総合] 月~金 8:00-8:15 / 月~金 12:45-13:00(再放送)
[BSプレミアム・BS4K] 月~金 7:30-7:45 / 土 9:45-11:00(再放送)
[見逃し配信] NHKプラス

出演:黒島結菜、仲間由紀恵、大森南朋、竜星涼、川口春奈、上白石萌歌ほか
作:羽原大介
音楽:岡部啓一、高田龍一、帆足圭吾
主題歌:三浦大知「燦燦」
語り:ジョン・カビラ
制作統括:小林大児、藤並英樹
プロデューサー:高橋優香子、松田恭典
広報プロデューサー:川口俊介、鈴木 葵
演出:木村隆文、松園武大、中野亮平ほか
制作:NHK
公式サイト:nhk.or.jp/chimudondon

渡辺裕子(イラストレーター/コラムニスト)

テレビ大好きイラストレーター。
テレビや映画について書いてるnote → http://note.mu/satohi11

わたなべひろこ

最終更新:2023/02/04 23:38
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