警察は暴力を許された職業なのか? SNS上の動画が訴える『暴力をめぐる対話』
#映画 #パンドラ映画館
フランスだけでなく、SNSで広まる暴力の連鎖
フッテージ映画『暴力をめぐる対話』の中で見逃せないのは、マクロン大統領の側近だったアレクサンドル・ベナラが2018年に起こした「ベナラ事件」だ。当時、マクロン大統領の警備責任者だったベナラは警察官の格好をして、メーデーのデモに参加していた市民に対して、殴る、首を締めるなどの暴力をふるっている。もちろん、警察官以外の人間が警察官になり済まして暴力をふるうことは許されていない。市民が記録した映像から、ベナラの顔が判別され、発覚した事件だった。
公務員である警察官は、制服を着ていると一人ひとりの顔と名前が覚えられにくい職種だ。ベナラは警察官の匿名性の強さを利用し、市民に対して私的な暴力を加えたことになる。暴力を使うことで、ベナラは市民に対する権力を実感していたのだろうか。
警察官の格好をして、公然と暴力をふるうベナラの映像を観て、インターネットの世界を連想する人もいるのではないだろうか。本名を明かさずに済み、顔もバレることのないSNS社会には「言葉の暴力」が日常的にはびこっている。社会的マイノリティーに対するヘイトスピーチも激しい。
素顔を明かさずに済み、しかも「正義」の御旗を掲げられる立場にあれば、人間は公然と同じ人間を傷つけることができる動物であるらしい。傷つけた相手を思いやることもない。さらに恐ろしいことに、ペストやコロナウイルスと同じように、暴力もまた次々と感染し、瞬く間に広まっていく。メディアやSNSを介しても伝播するだけに、暴力の感染力はより強いと言えるだろう。
本作は「黄色いベスト運動」が始まった2018年11月から2020年2月の間に、フランス各地で撮影されたフッテージ映像を、ダヴィッド監督がひとつひとつ撮影者を調べて、許可をもらったことで劇場公開に漕ぎ着けている。この期間中、フランス警察が行使した暴力によって、フランス市民2名が死亡し、5つの腕が失われ、27個の目が潰されたという。
スクリーン上の暴力に感染しないよう、本作をご覧になる方はくれぐれも気をつけて観てほしい。
『暴力をめぐる対話』
監督/ダヴィッド・デュフレーヌ 撮影監督/エドモン・カレール 音声/クレモン・ディジュー 映像編集/フロラン・マンジョ 音声編集/テオ・セロール ミキシング/ロール・アルト 製作総指揮/ベルトラン・フェーヴル
配給/太秦 9月24日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
©Le Bureau – Jour2Fête – 2020
bouryoku-taiwa2022.com
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