警察は暴力を許された職業なのか? SNS上の動画が訴える『暴力をめぐる対話』
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団地暮らしの移民層を侮蔑する警察官
2020年5月、米国のミネアポリスで、ジョージ・フロイドさんに対する警察官の暴行による死亡事件が起きた。事件の様子を市民がスマホで撮影した動画が、アフリカ系米国人に対する白人警察官の差別意識を明るみにした。『暴力をめぐる対話』も同じように、フランス警察官たちの自国民に対する差別意識をむき出しにしている。
両手を頭の上に置いた学生たちの集団が、警察官によってひざまずかされている異様な光景が映し出される。警察官が「これぞ、お利口なクラスだ」と学生たちを侮蔑するこのシーンは、地方都市マント=ラ=ジョリーの高校生たちがデモに参加したことから、警察官が威嚇して集団拘束している様子だ。戦場で捕らえた捕虜たちがこれから処刑されるかのような重苦しい緊張感が、この場面を支配している。
高校生たちの多くは、郊外にある団地で暮らしている。パリなどの大都市で生活する富裕層ではなく、移民層や低所得者たちの子どもらだ。燃料費の値上げが「黄色いベスト運動」の発火点となったのも、郊外で暮らす人たちは車なしでは仕事も生活もできないという実情からだった。カツカツの生活を強いられ続けてきた人たちの怒りが爆発したのが、今回の市民運動だ。国家にないがしろにされてきた「持たざる層」を、警察官たちは差別的に扱っていることがうかがえる。
こうしたフッテージ映像を観ながら、デモに参加した当事者たちが恐怖と怒りの体験を振り返り、社会学者や歴史学者たちは警察官による暴力は認められているのかどうかを、それぞれ意見を述べていく。
興味深いのは、警察側の立場で発言する人たちもおり、両論併記スタイルを本作は取っていることだ。警察官が武力行使する前に、デモ参加者たちが挑発し、暴言を吐いている部分が映っていないことに異議を唱える警察関係者もいる。確かにデモ参加者の一部は暴走し、銀行のATMや人気ブランド店を「権威の象徴」として襲撃している。セザール賞のパーティー会場として知られるパリの老舗カフェ「ル・フーケッツ」も炎上し、長期休業に追い込まれた。デモに紛れて暴動行為に走る一部の市民を非難する声もある。
人権意識が高いはずの法治国家・フランスの警察官たちが過剰なまでに武力公使するようになった背景には、2015年11月にパリで起きた同時多発テロがある。死者130名以上を出したこのテロ事件によって、フランス警察は大きく変わった。治安維持、国体保護を第一に考える武装組織となったのだ。暴力が暴力の連鎖を生み出したと言えるだろう。(2/3 P3はこちら)
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