警察は暴力を許された職業なのか? SNS上の動画が訴える『暴力をめぐる対話』
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無抵抗の市民を警棒で何度も殴りつける警官たち、車の中で怯えている市民を窓ガラスを叩き割って引き摺り出す警官たち、歩道にたたずむ市民に向かって手榴弾を投げる警官もいる……。どれもフランス各地で撮影された、フランス警察のリアルな姿だ。市民を守るはずの警察官たちが、平然と市民に暴力をふるっている。フランス映画『暴力をめぐる対話』(英題『The Monopoly of Violence』)は、世界的に問題となっている警察官たちによる過剰な暴力を記録したドキュメンタリー作品だ。
マクロン大統領政権下のフランスでは、燃料費の値上げ、生活費の高騰から「黄色いベスト運動」と呼ばれる市民運動が2018年から始まった。これまで政治にあまり関心を持つことのなかった、都市郊外で暮らす中流階級よりも下の階層の市民が中心となり、フランス各地でデモを行なっている。デモ参加者の多くが自動車内に常備することを義務づけられている蛍光色のベストを着ていることから、ジレジョーヌ(黄色いベスト)運動と称されるようになった。
デモ行進は市民に与えられた権利として法的に認められているものだが、フランス警察は過剰なまでの武力行使で押さえ込もうとしている。警棒以外にも、硬質ゴム弾を時速360kmで発射する銃「LBD40」で市民を狙い撃ちにする。さらにはTNT火薬25グラムを含み、大轟音で爆発した後に催涙ガスが流れる手榴弾「GLI-F4」がデモ集団に向かって投げ込まれる。
これらは「低致死性兵器」と呼ばれているが、ゴム弾が顔面を直撃したことで眼球が潰れた失明者、手榴弾の爆発によって腕を失った重傷者も続出している。自宅にいた高齢の婦人は手榴弾の直撃に遭い、命を落とした。デモ参加者だけでなく、巻き添えになった一般市民も多数に及んでいる。国連はフランスに対してこうした低致死性兵器の使用を止めるように呼び掛けているが、今もこれらの武器は使用が続いている。
市民やジャーナリストたちは、こうした警察官による暴力の数々をビデオカメラやスマホの動画機能によって撮影し、SNS上に次々とアップした。そんな生々しい暴力シーンをフッテージ映像として編集し、一本の映画にまとめ上げたのが、ドキュメンタリー作家のダヴィッド・デュフレーヌ監督。アーカイブ映像を多用した晩年のゴダール作品やブライアン・デ・パルマ監督の『リダクテッド 真実の価値』(07)などを参考にしたそうだ。
ダヴィッド監督は「映画によって、観客は映像の中、時には衝突が生じるデモの真ん中に身を置くことになります。このような没入感はパソコンや携帯では得られません」と語っている。スクリーンを前にした観客は、フッテージホラーよりも恐ろしい現実を目撃することになる。(1/3 P2はこちら)
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