『ちむどんどん』世間の冷たい仕打ちもこらえ、前を向く“主人公”矢作(第22週)
#朝ドラWATCH #ちむどんどん
もしも、矢作(井之脇海)が朝ドラの主人公だったら。
人と接するのが苦手で、なかなか店では料理の力を認めてもらえずにいたところに、オーナーの親戚だという新人がやってくる。明るい彼女は、シェフに仕入れ先に連れて行ってもらったり、夜はオーナーの部屋で一緒に飲んだりと愛され、重要な仕事を任されるようになる。彼女に仕事をとられた上、料理に専念したいのにホールの仕事もさせられるなど、待遇に不満を感じていた矢作は焦って店を飛び出し、自分の理想通りの店をオープンさせるが、うまくいかず、金に困った末に悪事を働いてしまう。
これはそんな不器用で欠点だらけな男・矢作の、料理への愛と夢、挫折と再生の日々。欲しくてたまらないものに必死に手を伸ばす物語……(ここで無言で包丁を研ぎ続ける姿と、背後から見守る妻のカットが入る)。うわー、半年間見届けたくなってきた。
でもこの朝ドラの主人公は、暢子(黒島結菜)。重子a.k.aしーちゃん(鈴木保奈美)は、店を休業させた暢子を「遠い南の島からたった一人でやって来て、船で冒険をする女の子」と言い、「あなたの冒険旅行は、私たちみんなの冒険」だと励ます。普通に考えたら感動的なシーンのはずなんですが、ここで私はしみじみとさみしくなってしまった。遠い島から来た暢子が船長で、彼女が奮闘する姿を見た人たちが、少しずつその船に乗り込んでは冒険を手助けしていく。ああ、この朝ドラは、そういう物語のはずだったんだ、そして私は主人公の船に乗り込めなかったんだ、と。
……そもそも、この朝ドラにおける「沖縄」が、全然遠く感じられないのがいけないんじゃないでしょうか。朝作ったお弁当が、崩れることなくその日の明るい時間に杉並に届けられる距離。たぶん街角に瞬間移動装置があって、杉並からやんばるにも鶴見にもすぐ行ける設定なんだと思いますが、暢子が遠くまで来て冒険してる感じが、その装置のせいで薄れちゃってると思うんですよね。信用金庫の人も、装置を使って杉並鶴見間をびゅんびゅん行き来しちゃってるし。
40万円入りの封筒をカウンターに置き忘れる。何度も借金をする。食べものが食べかけで残されたり、火にかけたまま焦がしてダメになる。このドラマで繰り返される「お金や食べものが大事にされないシーン」を見るととても気持ちがふさぐのはなぜだろうと思っていたんですが、お金も食べものも「生きること」に直結しているからではないでしょうか。お金と食べものを大事にしない人たちは、生きることも大事にしていない気がする。ましてこのドラマは「料理という仕事」が大きな柱なので、「仕事」も大事にしていないように思えてしまう。帆を張るべき柱が揺らいでいる船には乗れないなあ、とやっぱり思う。私が乗れなかった船を操る船長、暢子。「うち、間違ったことをしてる?」「向いていないのかもしれない」と、相手に「そんなことないよー」と言ってもらうこと前提の言葉をたびたび口にする、誰からも肯定してもらえて当然の人生を送る、恋も店も欲しいものはスムーズに手に入れる、いわば矢作とは正反対の人。そりゃあ本人も「うちは矢作さんとは違います!」ってうっかり本音を言っちゃいますよね。
すでに私の脳内では矢作が主人公なので、その視点では、暢子は「罪を心から悔いて、失敗を乗り越えてやり直そうと思っていても、見下して扱ってくる世間、その代表」みたいに感じてしまいます。矢作を泥棒扱いした智(前田公輝)も、フォンターナで矢作に焦げた肉を出した元同僚(料理人として恥ずかしくないのかしら)も同じ。彼らの仕打ちにぐっと耐え、消えない罪を抱えてそれでも前を向く矢作、がんばれ。この荒波を乗り越えて冒険してほしい、私の主人公!
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NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』
[NHK総合] 月~金 8:00-8:15 / 月~金 12:45-13:00(再放送)
[BSプレミアム・BS4K] 月~金 7:30-7:45 / 土 9:45-11:00(再放送)
[見逃し配信] NHKプラス
出演:黒島結菜、仲間由紀恵、大森南朋、竜星涼、川口春奈、上白石萌歌ほか
作:羽原大介
音楽:岡部啓一、高田龍一、帆足圭吾
主題歌:三浦大知「燦燦」
語り:ジョン・カビラ
制作統括:小林大児、藤並英樹
プロデューサー:高橋優香子、松田恭典
広報プロデューサー:川口俊介、鈴木 葵
演出:木村隆文、松園武大、中野亮平ほか
制作:NHK
公式サイト:nhk.or.jp/chimudondon
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