日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 『ちむどんどん』の根底にある男のドリーム
朝ドラWATCHコラム『ちむどんどん』第21週

『ちむどんどん』の世界では男だけが2回目の恋を許される?(第21週)

『ちむどんどん』の世界では男だけが2回目の恋を許される?(第21週)の画像
イラスト/渡辺裕子

 突然ですが、『ちむどんどん』クイズです。「暢子、歌子、房子」の3人には一度しかなくて、「和彦、智、三郎さん、善一さん」この4人に2回ずつあるものはなんでしょう。

 答えは「恋」。この朝ドラでは、女性の恋は一度きりで、初恋の相手と結ばれるか、失恋してもずっと相手を想い、他の男になびかない。その反対に、男性は2回恋をして、1回目の相手にも愛され続ける。『ちむどんどん』の世界には、男女の差がハッキリした恋の掟があるようです。この掟を破って2回目の恋をしそうな女性が養豚場の清恵(佐津川愛美)ですが、1回目の相手がチンピラ、2回目が賢秀(竜星涼)というのは「2回恋をする女への罰」的な匂いを感じてちょっとぞわぞわします。

 「男は複数回恋してしまう生き物、でも女はそんなカッコ悪い男を許して、昔の男のこともずっと愛し続けてくれる」。そのドリーム、いったいどこから来てるんでしょうか。そしてついこの前、献身的な奥さんとの愛のエピソードを見せた矢作(井之脇海)でさえ、上京してきた歌子(上白石萌歌)にデレデレと、なんだか必要以上に優しく接しているような。ああ矢作、あなたまで「男にだけ許されている2回目の恋」のドリームに染まらないでほしい。

 いつか別の場所でも仲良くしている姿を見た気がする矢作と歌子、2人を迎えてオープンした暢子の店「ちむどんどん」。主人公の夢の店がやっとでき、物語のクライマックスとも言える週だったはずなんですが、なんだか盛り上がらず、もやっとしてるのはなぜでしょう。手に入りづらい材料があるなどの問題点が示されても、いつの間にかなんとなく解決してしまっている。あの規模の店を2人でやるという暢子の無謀な計画も、便利な家事手伝いマシーン・歌子がやんばるから貸し出されたし、智(前田公輝)も和彦(宮沢氷魚)も無償で働くから解決。暢子(黒島結菜)の体調も万全。

 主人公に苦しんでほしいとかそういうことではないです。でも、朝ドラの主人公の姿に私が一喜一憂するのは、「彼らの痛みを、私も知っている」って思うから。「あれがほしい」と思うものに、どうしても手が届かない、その痛み。だからそれを努力して手に入れる姿を見たい。あるいは、夢をあきらめた先にある違う道を見せてほしい。その姿をテレビの前で応援させてほしい。彼らの勝利で、私のかつての痛みを少しだけ軽くしてほしい。

 でも暢子は、「うちはあきらめない!」と言っているうちに他の誰かがあきらめて助けてくれて解決、解決した過程を見せずに解決、金曜日にはすべて解決。この繰り返しで夢が叶ったと言われても、あなたには私の応援はいらなかったよね……と、仲間外れにされたようなさみしい気持ちがします。

 暢子と良子(川口春奈)が困った時は無職の歌子を使ってなんでも解決、みたいなことになっているのも、もやもやしてます。歌子は「ちむどんどん」でアルバイト代はもらえているんでしょうか。歌の練習はできているんでしょうか。新婚夫婦と襖一枚へだてた隣に寝泊まりして数カ月って、しんどくないですか。だけどそんな歌子も、先週は人前で歌えたのに今週はまた歌えなくなったり、そしてなぜか次の週はまた歌えたりするので、応援のしがいがないんですよね……「今週は歌い手レベル3です、来週はレベル上げお願いします」みたいな引き継ぎをしてないのかなあ。

 と、いろいろもやもやしつつも、このドラマに井之脇海さんが戻ってきてよかった。「ちむどんどん」で矢作が働いている姿を見ているだけで、朝から気持ちがよくなります。小気味良いリズムで響く野菜を切る音、話をしながら止まらない包丁。「大丈夫か」「それ済んだら座っとけ」とそっけない声で身重の暢子に気を配り、絶対やらないと言っていた接客を、彼女を気遣って代わる姿。契約以上のことをしない彼は正しいはずなのに、このドラマでは悪とされるのは納得いかない。

 でも彼のしてくれる気配りに対して暢子は感謝しないんですよね……「ちゃんと気をつけてるか」の言葉に「もちろんです」で終わり。そこは自然と「はい、ありがとうございます」って出ませんか? 以前、「暢子のいいところは、ごめんなさいとありがとうを言うところ」って言われてませんでしたっけ? この設定も、引き継ぎを忘れられてる?

■番組情報
NHK連続テレビ小説『ちむどんどん
[NHK総合] 月~金 8:00-8:15 / 月~金 12:45-13:00(再放送)
[BSプレミアム・BS4K] 月~金 7:30-7:45 / 土 9:45-11:00(再放送)
[見逃し配信] NHKプラス

出演:黒島結菜、仲間由紀恵、大森南朋、竜星涼、川口春奈、上白石萌歌ほか
作:羽原大介
音楽:岡部啓一、高田龍一、帆足圭吾
主題歌:三浦大知「燦燦」
語り:ジョン・カビラ
制作統括:小林大児、藤並英樹
プロデューサー:高橋優香子、松田恭典
広報プロデューサー:川口俊介、鈴木 葵
演出:木村隆文、松園武大、中野亮平ほか
制作:NHK
公式サイト:nhk.or.jp/chimudondon

渡辺裕子(イラストレーター/コラムニスト)

テレビ大好きイラストレーター。
テレビや映画について書いてるnote → http://note.mu/satohi11

わたなべひろこ

最終更新:2023/02/04 23:39
ページ上部へ戻る

配給映画

トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • twitter
  • feed
特集

【4月開始の春ドラマ】放送日、視聴率・裏事情・忖度なしレビュー!

月9、日曜劇場、木曜劇場…スタート日一覧、最新情報公開中!
写真
インタビュー

『マツコの知らない世界』出演裏話

1月23日放送の『マツコの知らない世界』(T...…
写真
人気連載

山崎製パンで特大スキャンダル

今週の注目記事・1「『売上1兆円超』『山崎製パ...…
写真
イチオシ記事

バナナマン・設楽が語った「売れ方」の話

 ウエストランド・井口浩之ととろサーモン・久保田かずのぶというお笑い界きっての毒舌芸人2人によるトーク番組『耳の穴かっぽじって聞け!』(テレビ朝日...…
写真