松井玲奈主演『よだかの片想い』 “見た目問題”を扱った社会派ラブストーリー
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映画の素材としてアイコを消費しようする映画監督
顔の左側に痣のあるアイコは、他の人と並ぶときは相手の左側に立つようにしていた。相手に痣をあまり見せずに済むからだ。でも、飛坂に恋をしたアイコは、飛坂の右側に位置するようになる。自分のすべてを受け止めてほしいという、アイコの心情の現れだった。
それまで、ひとりでも強く生きてきたアイコ。恋を知ったことで内面が大きく変化していく。強さと弱さがアンバランスに同居するアイコという女性が、飛坂ならずとも、とても愛おしく感じられてくる。
アイドルから女優に転身した松井玲奈は、NHK連続テレビ小説『エール』で二階堂ふみ演じるヒロインの姉役、主演映画『幕が下りたら会いましょう』(21)では才能のある妹(筧美和子)にコンプレックスを抱く主人公、愛知県蒲郡市でロケ撮影された『ゾッキ』(21)では1シーンだけ出演する幽霊役など、目立たない役を演じることで逆に印象に残るというトリッキーな存在だった。そんな松井にとって、人前に出るのは不得手だが、芯の強さのあるアイコは最高のハマり役だと言えるだろう。
本作を撮った安川有果監督は、長編デビュー作『Dressing Up』(12)と同様に、丁寧に主人公の揺れる心情を描いてみせた。『Dressing Up』の少女・育美(祷キララ)は自分のことをモンスターだと思い込み、鏡に映る自分の顔に怯えた。今回も、鏡やガラスがアイコの内面を映し出す小道具として効果的に使われている。
物語後半は、映画監督・飛坂の言動がクローズアップされていく。飛坂は嘘が付けない純粋な性格だ。多忙な飛坂との距離を縮めたいアイコは、映画化を許可するが、映画の企画が動き出せば、飛坂は映画製作に夢中になってしまう。映画を基準にしか物事を考えられない飛坂は、いい映画を作ればアイコも喜んでくれるものと無邪気に思っている。映画の素材としてアイコというひとりの女性を消費しようとしていることに、飛坂は気づくことができない。飛坂は決して悪人ではないが、結果としてアイコの恋心を利用することになる。
イケメンな映画監督・飛坂を演じた中島歩は、濱口竜介監督のオムニバス映画『偶然と想像』(21)の第1話「魔法(よりもっと不確か)」、城定秀夫監督の恋愛コメディ『愛なのに』(22)などに出演してきた。男のエゴイズムを、嫌味になるギリギリ手前で演じられる俳優だ。
飛坂とは自主映画時代から付き合いのある若手女優・城崎美和役の手島実優、アイコが通う大学院の陽気なミュウ先輩役の藤井美菜、同じく地味な後輩・原田役の青木柚も、それぞれ好演。助演陣の活躍が、主人公たちの物語をグッと奥行きのあるものにしている。(2/3 P3はこちら)
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