Perfume「Spinning World」 US市場との同時代性と“シティポップ的”音楽の未来
#Perfume #TOMC
アップデートを重ねていくザ・ウィークエンドとPerfume
(2/2 P1はこちら)
ザ・ウィークエンドは、ダークなオルタナティヴR&Bサウンドで2011年頃に頭角を現したが、その後80s色のあるポップ・ミュージックへと音楽性を進化させていった。ダフト・パンクを起用した『Starboy』(‘16)や、先行シングル「Blinding Lights」が大ヒットした『After Hours』(‘20)然り、「80s由来のサウンドをいかに現代的なエレクトロ・ポップに昇華させるか」という観点において、彼の作品群は2010年代後半以降のUS、ひいては世界市場をリードしてきたと言っても過言ではないだろう。
『Dawn FM』のダンスチューンは「Sacrifice」や「Gasoline」をはじめ、どちらかというとドラムやメインリフのシンコペーションの効いたループでグルーヴを作っていく曲が多いかもしれない。ただ、それ以上に興味深いのがカルヴィン・ハリスやスウェディッシュ・ハウス・マフィアなど、EDM全盛期を支えた音楽家を積極的に参加させている点だ。カルヴィン参加曲である「I Heard You’re Married」はウィークエンド/カルヴィン双方の嗜好が見事に合致した80sヨーロッパ的なダンスポップに仕上がっており、アルバム中でも隠れた重要曲だろう。
ウィークエンドのこうした歩みは、「テクノポップ」という呼称とともに世に出て以降、「グローバルと張り合える国産ポップ・ミュージック」としての注目を浴びながらアルバムごとに音楽性をアップデートしていったPerfumeのキャリアともどこか重なる部分がある。そして、「Spinning World」はこうしたシンクロ性を感じさせる最高のタイミングでリリースされたように思えてならない。
「Spinning World」が照らす、2020年代型シティポップとPerfumeの未来
先述のように、シティポップ的な音楽がインターネットのアンダーグラウンドシーンから火が点いてから、すでにおよそ10年が経とうとしている。海外ではアメリカ西海岸を筆頭に、シティポップの源流に当たるヨットロック(日本でいう「AOR」)やシンセ・ファンクを意識した作品がここ10年多数リリースされており、いま80s~シティポップ的な音楽性を発表する際には、そうした先行作品群の厳しいハードルが存在することを忘れてはいけない。
例えば、カルヴィンの『Funk Wav Bounces Vol. 2』の音楽誌上のレビューには「プロダクション面が贅沢でも曲自体は冴えない」(英ガーディアン誌)、「ディスコやブギーといった音楽性を借りてきた際の彼の音楽性は没個性的で(悪い意味で)ストリーミングのプレイリスト向け」(ピッチフォーク)といった、そのクオリティからすれば驚くほど辛辣なものが多い。一方、ウィークエンド『Dawn FM』は「架空のラジオ局をテーマにしたコンセプトアルバム」として肯定的な評価が多く、ただ特定のサウンドを持ち込むだけでなく、音楽家としてのスタンスや自己プロデュース性も含めて総合的に評価されていることが分かる。その点で、従来のエレクトロポップ的な音楽性も存分に反映させたPerfume「Spinning World」は、個人的にはそうしたハードルを見事に乗り越えた楽曲に思える。
Perfumeは、『COSMIC EXPLORER』(’16)が米ローリング・ストーン誌の「ベスト・ポップ・アルバム TOP20」において年間16位に選出されるなど、日本のメジャーレーベル所属のアーティストとしては宇多田ヒカルらと並び、比較的海外メディアから好意的なレビューを受ける機会の多いユニットである。Perfumeおよび中田ヤスタカが今後どのような音楽を制作し、世界のリスナーにどのように親しまれていくのか、期待を持っている音楽ファンも多いだろう。常に高い目標を掲げて躍進を続けてきた彼女たちの、さらなる成功を心から願いたい。
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本稿で紹介した楽曲を中心に、Perfume「Spinning World」を一層楽しむための楽曲をまとめたプレイリストをSpotifyに作成したので、ぜひご活用いただきたい。
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