『復讐は私にまかせて』男性優位主義的な価値観を塗り替えるバイオレンス奇譚
#映画 #パンドラ映画館
「愛は平和ではない。愛は戦いである」
梶原一騎原作の漫画『愛と誠』(講談社)で有名になった、インドの初代首相ジャワハルラール・ネルーが娘に宛てたと言われている言葉だ。インドとは海をはさんで近接するインドネシアで撮影された映画『復讐は私にまかせて』は、この「愛とは戦いである」という教えを地で行く格闘夫婦が織り成す、怒涛のバイオレンス奇譚となっている。2021年のロカルノ映画祭で最高賞を受賞しており、単なるB級アクション映画ではないことが分かる。
ケンカが大好きな若者アジョ・カウィル(マルティーノ・リオ)が、インドネシアの伝統的武術・シラットを習得している女性イトゥン(ラディア・シェリル)と遭遇したことから、熱いラブロマンスが花開く。戦うことでお互いの愛を確かめ合う、おかしな男女が本作の主人公だ。
アジョは悪名高い実業家のレベを懲らしめに工事現場へと向かったが、そこで待っていたのはかわいい顔をした女性イトゥンだった。イトゥンはお金でレベに雇われ、彼のボディガードを務めていた。お互いに憎しみはないが、戦うことになるアジョとイトゥン。小柄なイトゥンだが、シラットの達人であり、目の覚めるような早技を繰り出してみせる。ケンカなら百戦錬磨のアジョも負けてはいない。お互いに突き、蹴り、関節技をきめ合う2人だった。
アジョとイトゥンは戦っているうちに、お互いの息がぴったりと合っていることに気づく。相手の繰り出すパンチや投げ技を喰らうのが、気持ちいい。まるで、プロレスラー・獣神サンダーライガーと佐野直喜のベストバウトを観ているかのようだ。もはや、2人にとって勝敗はどうでもよかった。この戦いがきっかけで、どちらも忘れられない存在となる。殴られた痣は数日で消えるが、相手のことを考えると心がズキズキし始める。これは疑いようのない恋心だった。
ボディガードを辞め、遊園地で働くようになったイトゥンのもとへ会いに行くアジョ。2人が恋に墜ちていく様子がロマンチックに描かれる。だが、アジョはイトゥンとは交際できない重大な秘密を抱えていた。アジョは少年時代、「日食の日」に体験したトラウマが原因で、勃起不全状態となっていた。ベテラン娼婦も匙を投げてしまうほど深刻だった。
大雨の夜、アジョの秘密を知らされたイトゥンは叫ぶのだった。
「それでもかまわないわ。結婚するのよ!」
アジョのすべてを受け入れるイトゥン。晴れて、2人は華やかな結婚式を挙げることになる。(1/3 P2はこちら)
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