『ちむどんどん』「全然わからねぇ」理由で他人に踏み込む暢子たち(第17週)
#朝ドラWATCH #ちむどんどん
ドラマで、主人公たちが集まる様子を見ながら「あ、この店に行きたい」って思うこと、ないですか? にぎやかな居酒屋、ママが愚痴を聞いてくれるバー、町の中華料理店など。ドラマが完結すると同時にその店も消えてしまうのが悲しくなるような。『ちむどんどん』では和彦(宮沢氷魚)の母・重子(鈴木保奈美)が毎朝通う喫茶店「サーカス」、あのお店には行ってみたいです。落ち着いた良い雰囲気ですてき。
でも、暢子(黒島結菜)が勤める「アッラ・フォンターナ」には……正直なところ、あまり行きたくない。初めて来た客を「まさかやー様」などと呼ぶオーナーとシェフは、おどおどと入ってきた私にはどんなあだ名をつけるだろう。隣の席の常連らしき客とは楽しそうに雑談をし、そうかと思うと前菜から席の横に立ち、やたら話しかけてくる従業員たち。誰もが憧れる銀座の一流店には、まだ私はふさわしくないのでは。お料理がとてもおいしそうだったなら、あるいは……と思うんですが、思い出すのは「食べられない料理」ばかり。ぶちまけられた鍋いっぱいのトマトソース。焦がした肉料理。転んで床に落とされた皿。放置されたバースデーケーキ。
そんな店に、ヤクザが言いがかりをつけてきて大ピンチ! ……となっても、今のところ心の中でも常連になれていないお店なので「そうですかたいへんですね」と、冷めた目で見てしまう。実は、このトラブルの元になった、矢作(井之脇海)のお店の方が心配です。フォンターナを辞めて麻布に店を出して数カ月ですでに夜逃げで行方不明ってスピード早すぎ、家族もいるのに今どこでどうしているの矢作。
その、「このお店を好きになれていたら」という気持ちは、残念ながら主要登場人物たちにも感じていることで……もちろん恋心なんて理性でコントロールできないものだけど、3週間も4人の恋の顛末を見てしまったあとで、ふたりを応援するのは私にはちょっと難しい。ああ、主人公たちを好きになれていたら。でもドラマ内の彼らは、今までのゴタゴタはなかったみたいにみんなに愛されていてこわい。田良島(山中崇)なんて、母へのリップサービス込みとはいえ、和彦を「誠実」とまで言っちゃった。同僚たちも、数カ月バイトしていた暢子だけを応援して、長年一緒に働いていた愛ちゃん(飯豊まりえ)は忘れちゃったの? 私がテレビの中に見ている風景と、彼らが見ているものは違うんだろうか。
そしてフォンターナのトラブルは、予想通り金曜日に三郎(片岡鶴太郎)がやってきて一喝、ヤクザの親玉(利重剛)はむかし三郎に世話になっていたからすべて解決。この流れ、なんだか既視感。ついこの前、良子と石川家のゴタゴタも突然現れたおばぁ(吉田妙子)の一喝ですべて解決していたような。何があっても週の終わりに強い人が出てきてトラブルが解決するなら、主人公たちは変化も成長もしなくていいことになってしまうんだけど、それでいいのか。今週、暢子と和彦がしたのは、弁当を作る・秘密を周囲にしゃべりまくる・三郎と房子の過去を聞き出す、これだけですが、そのどれもが「他の人との境界線を破壊し続ける」ことなんですよね。過去の恋愛についてなんて超プライベートなことをよくわからない理由でいきなり聞くのも、境界線破壊。そりゃ三郎さんも和彦に「全然わからねぇ」って言いますよ。見てる私も「わからねぇ」って唱和しちゃいましたよ。
和彦以上の境界線ブレイカー暢子、いらないと言われ続けてるのに「うちは何か間違ったことしてる?」と言いながら笑顔で弁当を作る姿、開けるなというドアを開けようとする姿、無邪気という名の狂気を感じました。こういう人にロックオンされたら、必死に逃げるか、あきらめて飲み込まれて「同じ世界を生きているんだから!」の言葉に力なくうなずくしかない。悪気のないフレンドリーさを非難するのって、難しいですね。
弁当攻撃だけでなく、静かな喫茶店での時間を和彦の訪問with中原中也で境界線破壊される重子さんですが、あの店の従業員も大変そう。注文したコーヒーを飲まずに帰るか、何も注文せずに喧嘩して帰る和彦が店に入って来ても、とうとう注文を取りにいかなくなってしまった。ドラマ内唯一の、いつか行きたい良い店の雰囲気を、どうか負けずにキープしていただきたい。
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NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』
[NHK総合] 月~金 8:00-8:15 / 月~金 12:45-13:00(再放送)
[BSプレミアム・BS4K] 月~金 7:30-7:45 / 土 9:45-11:00(再放送)
[見逃し配信] NHKプラス
出演:黒島結菜、仲間由紀恵、大森南朋、竜星涼、川口春奈、上白石萌歌ほか
作:羽原大介
音楽:岡部啓一、高田龍一、帆足圭吾
主題歌:三浦大知「燦燦」
語り:ジョン・カビラ
制作統括:小林大児、藤並英樹
プロデューサー:高橋優香子、松田恭典
広報プロデューサー:川口俊介、鈴木 葵
演出:木村隆文、松園武大、中野亮平ほか
制作:NHK
公式サイト:nhk.or.jp/chimudondon
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