三木聡監督の新作は“違和感を楽しむファンタジー” あの『大怪獣』についても語る
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不条理なものに対し、自分なりの解を求めていく面白さ
――ホラーコメディは演出のさじ加減が重要ですが、観客の度量も求められるように思います。
三木 う~ん、度量というか……。これもよく言われることだけど、女性のほうが不条理なものを受け入れやすい、抵抗感がないと。それに対し、男性は整合性を求めたがる。写真の世界だと男性はシャッタースピードや露光などにこだわるけど、女性は感性で撮っていく。いい写真が撮れればいいじゃない、と。その点では、今回の作品は女性的な映画なのかもしれない。無意味なものを、お客さんが意味を考えて埋めていき、そのことを面白がる映画は、80~90年代のミニシアター系作品には多かった。不条理なもの、よく意味の分からないものに対して、自分なりの解を見つけていくという楽しみ方が減っているようには思いますね。僕の作品は時代に逆行しているのかもしれません(笑)。
――三木監督の作品を観ていると、芥川龍之介の短編小説『トロッコ』に似たものを感じます。男の子がトロッコに夢中になって、遠くまで走っていく高揚感と帰ってこられないかもしれないという恐怖が混在している。
三木 『図鑑に載ってない虫』は、まさにそんな世界でしたね。
――三木監督自身、「誰も書いたことがないような物語を書いてみたい」という気持ちと「これ以上進めると物語として崩壊してしまう」みたいな恐怖を感じることがあるんじゃないですか?
三木 単純に物語を構築するのが下手なだけですよ(笑)。自己流でシナリオ書いてますから。物語として、行って帰ってくるというのは基本だと思います。『スター・ウォーズ』シリーズも主人公が成長して、最後は故郷に戻ってくる話です。今回は「主人公が行ったまま戻ってこれなくなったら、面白い」と思ったんでしょうね。ロッド・サーリングが脚本とホストを務めていた『トワイライト・ゾーン』も、そんな話が多いですし。今回の場合は、掘っていけば違う物語展開になったかもしれないけど、あえて掘らなかった部分もあると思います。ちょっとネタバレになるけど、物語の後半、異界で暮らし始めた加藤(成田凌)の前に、なぜか銃が置いてある。そこにどんな意味があるのか。惠子(前田敦子)の夫・南雲(六角精児)を撃つのか、どうするのか。その様子を、外から惠子がじっと見ているという気持ち悪さがある。そこをさらに掘り進めていけば、『郵便配達は二度ベルを鳴らす』(46年)みたいなサスペンス的な展開になったかもしれませんが、そこはあえて掘りませんでした。寸止めのほうが、余計に気持ち悪さがあるんじゃないかと思ったんです。(5/8 P6はこちら)
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