森達也監督が初の劇映画に挑む 家族と郷里を愛する自警団が虐殺を犯した「福田村事件」とは?
#森達也
皇室を舞台にした小説『千代田区一番一号のラビリンス』
――今年3月に刊行された小説『千代田区一番一号のラビリンス』(現代書館)も、非常に面白く読みました。2005年に森監督がフジテレビの『NONFIX』で放映しようとしたものの、制作中止になった『シリーズ憲法 第一条』の顛末が、実在の人物や小説ならではのフィクションも交えて描かれています。
森 面白いでしょ? ぜひ、サイゾーも『千代田区一丁目一番地のラビリンス』のレビューをお願いします。
――皇室を舞台にした小説を書こうと思った動機はなんだったんでしょうか。
森 小説の中にも書きましたが、最初のきっかけは日韓ワールドカップの開催前に、明仁天皇が記者会見で「桓武天皇の生母は百済の武寧王の子孫である」と語ったことです。韓国のメディアはトップで扱ったけれど、日本のメディアは大きくは扱いませんでした。山本太郎議員が直訴状を渡した事件も、きっかけになりました。その1年後に天皇ご夫妻は私的な旅行として佐野市の郷土資料館を訪ね、田中正造が明治天皇に渡そうとした直訴状を見学しています。新聞は周辺を散策し、そのついでに資料館にも足を延ばしたと記事にしていますが、明らかに山本議員の一件と繋がっています。言葉を封じられているからこそ、天皇ご夫妻は自分たちの想いを行動で国民に伝えようとしている、と直感しました。そこから、天皇ご夫妻は普段はどんな会話をしているんだろうなぁ、などと考えていたら妄想がどんどん広がって、一冊の小説になったんです。
――明仁天皇と美智子皇后の日常会話がとてもほのぼのとしていて、親しみを感じさせます。
森 妄想で書いたものですが、あながち間違っていないんじゃないかな。美智子皇后の存在は重要です。女性にイニシアチブがある家庭は多いでしょうし、フィンランドやスウェーデンの内閣や議員の半分は女性が占めています。女性は総じて聡明だし、優秀です。日本の政治家も8割は女性が占める状況になれば、もう少しまともになると僕は思うな。
――『福田村事件(仮)』はクラウドファンディングで現在製作費2000万円以上(7月4日の時点で目標額2500万円を突破)が集まっています。関心を持っている人は少なくないようですが、大正時代を舞台にした劇映画なので、衣装や小道具、エキストラの動員などで予算的には大変ではないでしょうか。
森 製作費が本来なら2億~3億円くらいかかる内容なので、本当に大変です。足りない分は切り詰めてやっていくしかありません。ロケハンは還暦前後の男たち6人で一台の車に乗り、一泊2000円のユースホステルを転々としてきました。開き直りもありますが、楽しんでやっていますよ(笑)。
『福田村事件(仮)』
企画/荒井晴彦 監督/森達也 脚本/佐伯俊道 プロデューサー/井上淳一、片嶋一貴 統括プロデューサー/小林三四郎 製作・配給/太秦 2023年8月公開予定
※2022年8月12日(金)まで、A-portにてクラウドファンディングを実施中。
https://a-port.asahi.com/projects/fukudamura1923/
●森達也(もり・たつや)
1956年生まれ。映画監督、作家、オウム真理教を被写体にしたドキュメンタリー映画『A』(97年)、『A2』(01年)が国内外の映画祭で上映され、話題を呼ぶ。ドキュメンタリー映画に『FAKE』(16年)、『i-新聞記者ドキュメント-』(19年)、共同監督作『311』(11年)がある。『ミゼットプロレス伝説~小さな巨人たち~』『職業欄はエスパー』『放送禁止歌』(フジテレビ)、『ドキュメンタリーは嘘をつく』(テレビ東京系)などテレビのドキュメンタリー作品も手掛けた。
『下山事件(シモヤマ・ケース)』(新潮社)、『いのちの食べかた』(理論社)、『オカルト 現れるモノ、隠れるモノ、見たいモノ』(角川書店)など著書も多数。2022年3月に小説『千代田区一番一号のラビリンス』(現代書館)を発表している。
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