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日刊サイゾー トップ > インタビュー  > 『i-新聞記者』忖度とどう闘う?
『i-新聞記者ドキュメント-』公開記念 森達也監督×河村光庸P対談(後編)

日本社会全体を覆う「忖度」と、どう闘う?

東京新聞社会部に所属する望月記者。自分が納得できないときは 先輩デスクにも食ってかかるなど、激情家の一面を見せる。

前編はこちらから

 11月15日(金)公開のドキュメンタリー映画『i-新聞記者ドキュメント-』が注目される森達也監督と、配給会社「スターサンズ」の代表取締役である河村光庸プロデューサーの対談後編。話題は映画の内容だけにとどまらず、「忖度」や「同調圧力」によって動いている日本特有の社会構造へと広がった。

戦争さえも「忖度」によって引き起こされた

―――記者クラブの閉鎖性は、村社会を生み出す日本人の民族性とも関わる問題のようですね。

 そう思います。日本社会は集団と親和性が高い。言い換えれば、群れるのが大好きなんです。群れは同質性でまとまります。異質なものを入れたら、群れではなくなってしまう。つまり集団化が進めば、異質なものを排除しようという動きも大きくなる。それは近年のヘイトスピーチ、あるいは欧米の移民排斥の動きなどにも表れています。排他性でいえば、まさに日本の記者クラブですね。民主党政権時代の記者クラブはフリージャーナリストにも扉を開こうとしたんですが、安倍政権になって再び固く閉められてしまった。たぶん、既成メディアの記者たちにとっても、そのほうが楽なんでしょう。政治権力にとっても、そのほうがメディアをコントロールしやすいわけです。

――菅官房長官に質問を繰り返す望月記者に対し、会見の司会を務める上村秀紀官邸報道室長は「質問は手短に」と連呼する。上村室長は「i」ではないわけですね。

 望月さんは「彼が標的になるのはかわいそう」と話していましたし、僕もそう思います。彼は別に悪人ではありません。官邸にはたくさんの「上村さん」がいる。たまたま前面に出ているのが、上村さんだった。組織の中には100人、200人の上村さんがいます。

河村 今のマスメディアに対して、私が言いたいのは、「表現者を孤立させるな」ということ。日刊サイゾーは『宮本から君へ』に対して文化庁が助成金の不交付を決めた問題を、プロデューサーである私に対する政権からの圧力ではないかと報じた(参照記事)わけだけど、問題を私個人のことに矮小化している。本当は「表現の自由」に関わる大きな問題なんです。もっとメディアはそのことを認識して、記事にしてほしい。メディアの責任は重いですよ。表現者を孤立させちゃ、ダメです。森監督は強い人だから孤立することを恐れていないけど、多くの人は孤立することを恐れ、多数派に同調してしまう。そこが問題なんです。

 『A』や『A2』を公開したとき、同業者からよく聞かれました。「危険な目に遭わなかった?」「公安とかの尾行がついているんじゃないの?」と。それを聞いて、みんなおびえているんだなぁと感じました。過度におびえていると、何も取材できなくなってしまう。

河村 6月に劇映画『新聞記者』を公開したとき、私も同じことを尋ねられました。内閣情報調査室にスポットライトを当てても平気なのかと。全然平気ですよ。権力は、直接的には手を出さないんです。誰も具体的な命令は下しません。すべては同調圧力、忖度で動いてしまう。そこには主体というもの、実体がないんです。

――みんな、実体のない影におびえ、踊らされている?

河村 すべては我々の勝手な思い込み、幻想にすぎないわけです。忖度した結果、そうなってしまう。官僚の世界は特にそうでしょうし、戦前も同じような状況だったと思います。海軍があって、陸軍があって、天皇陛下がいて、それを取り巻く大勢の人たちがいて、主体がどこにあるのかわからずに戦争に突入してしまった。戦争が始まったのに責任者はどこにもいないという、おかしな状況になっていたんです。

 『i-新聞記者ドキュメント-』は東京国際映画祭で上映され、中国とタイの記者からの取材を先ほど受けました。中国は共産党、タイは軍事政権が大きな存在となっていて、不自由である理由がはっきりとわかっています。でも、日本を支配しているのは場と空気なんです。場と空気という見えないものに支配されているので、自分たちが不自由であることすら気づいていません。日本は非常に屈折した状況なんだなと、他国の記者たちの取材を受けながら感じました。

河村 もしかしたら、安倍総理さえもそうなのかもしれない。自分の意思ではなく、「こうしたほうがいいんじゃないかな」という単なるイメージで動いているのかもしれない。かつて吉本隆明が『共同幻想論』という本を出しましたが、今の日本が共同幻想そのもののように思えます。戦前もね、大正デモクラシーがあり、自由を謳歌していた時期もあったのに、あっという間に戦争へとなだれ込んでしまった。今の状況はひどく危険に思えて仕方ありません。だから、マスメディアは物事や人物を孤立化させないで、社会全体を見つめながら取り上げていかないとダメなんです。『新聞記者』は大ヒットしたので、ネトウヨも騒ぎませんでした。

 ネトウヨは劇場で映画を観ないから。来てほしいなあ。

河村 『新聞記者』は公開前に右寄りの学者が少し騒いだ程度で、公開後にガンガンくるかと覚悟していたら、無反応だった(笑)。私はね、愛国主義も民族主義も、別に悪いことだとは思いません。ただ、自分とは異なる存在を排除しようとするのが問題です。その途端に、愛国主義や民族主義が排他主義になってしまう。それがマズいんです。

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