岸井ゆきのを「ゲスかわ女優」と呼びたくなるムロツヨシとの共演作『神は見返りを求める』
#映画 #パンドラ映画館 #ムロツヨシ #岸井ゆきの
注目度が上がるにつれ、美しくなるヒロイン
再生回数が伸びないことに焦ったゆりちゃんが、ネット上で炎上騒ぎを起こしてしまう。頼れる男・ 田母神の出番である。ゆりちゃんの自宅にお邪魔し、謝罪動画を撮影・編集する田母神。その後ろでは、ゆりちゃんが下着姿となり、「こんなことでしか、返せないから」と田母神に抱きつく。
「俺は見返り欲しさにやっているわけじゃないから」
半裸状態のゆりちゃんに、優しく上着を掛ける田母神だった。紳士を気取りながらも、ちょっと惜しいかなという顔を垣間見せる田母神は、ムロツヨシにしか演じられない役だろう。また、下着姿のゆりちゃんの靴下がくたびれて、生活感が漂うものになっているところに、吉田恵輔監督ならではのフェティッシュさを感じさせる。フェティッシュさは名監督の必須条件だ。
ゆりちゃんから最上級の敬意を勝ち取った気でいた田母神だが、男女の関係性は日々刻々と変化する。田母神の同僚・梅川(若葉竜也)の紹介で、人気YouTuberのカビゴン(吉村界人)とチョレイ(淡梨)に出会ったゆりちゃんは、彼らの番組にゲスト出演。上半身裸になったゆりちゃんの体当たりボディペインティングは話題となり、大いにバズることに。
ゆりちゃんが一躍人気者となり、田母神は気が気ではない。一流デザイナーの村上アレン( 栁俊太郎)が撮影や編集を担当するようになり、センスのいい、オシャレな動画に変わっていく。注目度が上がるにつれ、ゆりちゃんもどんどん洗練され、別人のように美しくなっていく。だが、外見的な美しさと反比例して、ゆりちゃんの性格はえげつなく変わってしまう。
田母神はすっかりオジサン扱いされ、 打ち合わせにも撮影現場にも居場所がない状態だった。「あれだけ、俺が愛情を注いでやったのに……」。かわいさ余って、 憎さ100倍。田母神は暴露系YouTuber・ゴッディとなり、ゆりちゃんの非道ぶりを告発する。
田母神の下心ありの善意を踏み台にして、のし上がっていくゆりちゃん。計算高い、女のしたたさを岸井ゆきのが存分に見せてくれる。『 おじいちゃん、死んじゃったって』(17)でセクシャルなシーンに挑んでいた岸井だが、本作では衣服だけでなく、ひとりの女性の内面までもさらし出してみせる。ここまで身も心も裸になれる女優は、そう多くはない。
吉田恵輔監督は10代の頃から続けてきたボクシングを主題にした『BLUE ブルー』(21)、 6月11日に亡くなった河村光庸プロデューサーとのタッグ作『空白』(21)、どちらも高い評価を受けている。良質のシリアスドラマや社会派ドラマも生み出す吉田監督だが、やはり『さんかく』(10)や『犬猿』(18)などのコメディ作品が抜群に面白い。人間のダメな部分への、深い愛情を感じさせる。また、映画離れが進む若者たちに人気のYouTubeの世界に、映画表現で真っ向勝負している姿勢もカッコいいではないか。
再生回数を求めて、より過激路線へと走っていく即物的なネット社会を題材に、数値では計れないものを逆説的に見せてくれるところが、本作の面白さだろう。(2/3 P3はこちら)
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