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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.691

庇護者の不在を描いた『ベイビー・ブローカー』と現代の姥捨山物語『PLAN 75』

韓国の歌姫イ・ジウンが、女神に思えるシーン

庇護者の不在を描いた『ベイビー・ブローカー』と現代の姥捨山物語『PLAN 75』の画像2
商業映画デビューを果たしたイ・ジウン。韓国では歌姫、CMの女王として知られる

 諸事情から育てることができない赤ちゃんを匿名で預かる「赤ちゃんポスト」の形態は、2000年頃にドイツなどで始まった。日本では熊本県の慈恵病院がドイツを参考に「こうのとりのゆりかご」として2007年からスタートさせた。2005年に熊本県内で起きた赤ちゃん遺棄事件がきっかけだった。「安易な育児放棄につながる」と批判する声は今でもあるものの、この15年間で161人の子どもたちを慈恵病院は受け入れてきた。韓国では「ベビーボックス」と呼ばれ、日本よりも多くの赤ちゃんが預けられているという。

 生まれて間もない赤ちゃんが「赤ちゃんポスト」に預けられる理由はさまざまだ。経済的な困窮がいちばん多いが、生まれてきた赤ちゃんが障害を持っていた、赤ちゃんができたことを親や学校に知られたくなかった……、そんな事情から赤ちゃんを手放す母親も少なくない。「赤ちゃんポスト」に預けたものの、後悔して引き取りに現れる母親もいる。

 赤ちゃんを育てる自信がない。そんな母親たちが本当に欲しているのは、実は「赤ちゃんポスト」ではない。直面する問題を一緒に、親身になって考えてくれる人、問題解決の糸口を見つけてくれる人を、彼女たちは求めている。悩みを打ち明けられる相手がおらず、孤独な母親たちはひとりで思い詰め、人工中絶や新生児遺棄、さらには母子心中に至ることになる。

 赤ちゃんでお金儲けしようとするサンヒョンとドンスだが、どこか抜けており、憎むことができないキャラクターだ。聖人君子には到底なれないサンヒョンとドンスだが、そんな2人ゆえに、訳ありな女・ソヨンは気兼ねせず、行動を共にできる。赤ちゃんの世話を焼くサンヒョンとドンスも、赤ちゃんにとってのベストの家庭を見つけることをソヨンに約束する。

 物語の後半、赤ちゃんにとって最適と思える家庭が見つかる。裕福な夫婦で、赤ちゃんに対する愛情もしっかり持っている。赤ちゃんとの別れが決まった夜、ソヨンはとても大切な言葉を口にする。韓国では歌姫「IU(アイユー)」として知られるイ・ジウンだが、この台詞を口にするときの彼女はまるで女神のようだ。日本語でささやかれるとちょっと気恥ずかしくなる言葉ではあるが、このシーンを観るだけでも本作は大きな価値があるように思う。

 血の繋がらないハンパものたちが、ひとつの家族になっていく『ベイビー・ブローカー』。本作には、もうひとつのテーマを感じさせる。それは絶対的庇護者の「不在」という問題だ。(2/4 P3はこちら

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