『ちむどんどん』経験が積み重ならない主人公と、“優しさ”で支配する母親(第9週)
#朝ドラWATCH #ちむどんどん
レストランのオーナー・大城房子(原田美枝子)は、あの、比嘉家の子どもを引き取りたいと連絡してきた、父・賢三(大森南朋)の叔母さんでした。「まさかやー!」と驚いているのは暢子(黒島結菜)とその家族だけで、視聴者全員が「知ってた」とチベットスナギツネのような目でつぶやいたであろう展開。偶然たどり着いた鶴見の、偶然あがりこんだ家の住人・三郎さん(片岡鶴太郎)に、偶然紹介された店のオーナーが、名前も忘れていたけど親戚。うん、あるあるー(スナギツネフェイスで)。
和彦くん(宮沢氷魚)との再会に続き、「幼い頃の縁をばっさり切る」「そして偶然on偶然による突然の再会」となったオーナーの正体判明。ひとりで東京行きを決意する暢子、東京から来た和彦くんとの別れ。この、少女時代のとても印象的だったエピソードが、暢子たちにとっては何も意味がなかったみたいに切られちゃうのが、本当に違和感あります。大叔母の、子どもを引き取るという決断と、暢子を迎えるためにしていただろう準備について、暢子は大人になっても思いをめぐらすことはなかったんでしょうか。バスの中で手を握ってくれた和彦くんの思いは、暢子の中に何も残さなかったんでしょうか。思い出も人への思いやりも積み重ならない主人公・暢子の中は、もしかして空洞なんじゃないかと思えるんですが。
それだけでなく、肝心の料理の修業も、暢子の中に積み重なっているようには見えない。新聞社で「食べる人のために料理する」という学びを得たはずなのに。その前のペペロンチーノ対決でも、いろいろ学んだだろうと思ったのに。今週は「私のカルパッチョを食べろ!」「私のオリジナルおでんが売れないのはありえん!」「オーナーは意地悪!」と自分勝手+思い込み+人の悪口と、一気に数週間前の暢子に戻ってしまっている……ドラマ内の時間でいったら何年前に逆戻りしてるんでしょう。でも金曜日には「暢子は修業に明け暮れ年月が過ぎ」って、またすごろくのサイコロで六が出ちゃったみたいにぴょーんと飛んで成長したことになって今週も終わり。あのバサバサしてた髪の毛をまとめたのが唯一見られる成長のあかし……と思ったら次週予告で、また髪の毛おろしてる、どうして??
そんなモヤモヤした今週も、母・優子(仲間由紀恵)が、ラスボスとして物語を影で支配していたと思うんですけどどうですか。何度も倒れる歌子(上白石萌歌)は大きな病院できちんと検査したほうがいいと思うけど、優子が「仕事は休みなさい」と言うだけなのは、「病弱な娘を優しく家で看病する母」のポジションでいたいからじゃないかと思ってしまう。大騒ぎの末に結婚した博夫(山田裕貴)と離婚すると言う良子(川口春奈)をとがめないのも、「そんな娘を許して見守る母」ポジションのため。そして、また金を無心してきた賢秀(竜星涼)に大金を送ってしまうのも、「ダメな息子を愛して信じる母」であり続けるため。優子は子どもたちを「ダメ」にしておきたいんじゃないかなあ。それなら自分は「ダメな子どもたちを、そのままでいいよと見守る優しいお母ちゃん」でいられる。子どもたちは「こんなにダメで、お母ちゃんに申し訳ない」と劣等感と罪悪感で、母から離れられない。優しさで子どもたちをダメにして自分に縛りつけるラスボス、こわいですね。優しいことは誰からも悪く言われないものね。
家族の思い出として語られたてびちの夕食も、恐ろしかったですね……。幼い頃から賢秀は「嘘をついて奪おうとする→良子にとがめられる→すねる→暢子は怒らない→父も母も怒らない、それどころか自分の分を賢秀にやる」このやり方で育てられ、悪いことをしても、最後には欲しいものを手に入れて許されることを覚えてしまった。だからあんなに明るく、お金を騙し取った被害者・養豚場へと、また仕事をしに戻ったりできるんですよね、許されて当たり前だと思っているから。
母・優子の「子どもはダメでいてほしい」優しい呪いと、父・賢三が「何があっても家族」と遺していった呪い。実はこの朝ドラは、両親の呪いから子どもたちが解き放たれて自由に生きるまでのドラマ……だとしたら、すごい名作になりそうな気がするんですけどね。
“ちゃぶ台返し”続く『ちむどんどん』と会話のキャッチボールのない暢子(第7週)
比嘉家によるちゃぶ台のひっくり返しは、これで何回目でしょうか。幼い暢子の東京行きキャンセル、高校生の暢子が決まりかけた就職を蹴って「東京でシェフになる」宣言、そして今...『ちむどんどん』借金を返す約束を破り続ける比嘉家と、なぜか楽しげな劇伴(第6週)
賢秀(竜星涼)が送ってきたあの60万円は、やっぱりボクシングのファイトマネーじゃなくて借金だったー! つまり銀行や賢吉おじさん(石丸謙二郎)への借金を、ボクシングジ...人生ゲームのような『ちむどんどん』 登場人物は“動かされ”、話は飛ぶばかり…(第5週)
暢子(黒島結菜)は今回はバスから降りず、そのまま東京に行くようですね。でも東京のどこに行くの? どこで働くの? どこに住むの? それが語られないまま今週分が終わり、次...周囲は魅力的だけど…なかなか主人公に「ちむどんどん」できない『ちむどんどん』(第4週)
今週、見ていた人がいちばん「ちむどんどん」したのは、良子(川口春奈)の恋でも、下地先生(片桐はいり)と歌子(上白石萌歌)の追いかけっこでも、ニーニー(竜星涼)の寅さん...■番組情報
NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』
[NHK総合] 月~金 8:00-8:15 / 月~金 12:45-13:00(再放送)
[BSプレミアム・BS4K] 月~金 7:30-7:45 / 土 9:45-11:00(再放送)
[見逃し配信] NHKプラス
出演:黒島結菜、仲間由紀恵、大森南朋、竜星涼、川口春奈、上白石萌歌ほか
作:羽原大介
音楽:岡部啓一、高田龍一、帆足圭吾
主題歌:三浦大知「燦燦」
語り:ジョン・カビラ
制作統括:小林大児、藤並英樹
プロデューサー:高橋優香子、松田恭典
広報プロデューサー:川口俊介、鈴木 葵
演出:木村隆文、松園武大、中野亮平ほか
制作:NHK
公式サイト:nhk.or.jp/chimudondon
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事