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朝ドラWATCHコラム『ちむどんどん』第6週

『ちむどんどん』借金を返す約束を破り続ける比嘉家と、なぜか楽しげな劇伴(第6週)

『ちむどんどん』借金を返す約束を破り続ける比嘉家と、なぜか楽しげな劇伴(第6週)の画像
イラスト/渡辺裕子

 賢秀(竜星涼)が送ってきたあの60万円は、やっぱりボクシングのファイトマネーじゃなくて借金だったー! つまり銀行や賢吉おじさん(石丸謙二郎)への借金を、ボクシングジムの給料前借りと仲間からの借金で返しただけで、賢秀が壊したハンバーガー店の賠償金と暢子(黒島結菜)の上京費用の分、負債は増えているということに。良子(川口春奈)が給料前借りしたものも残ってるんですよね? こうなったら番組の最後に「比嘉家の借金 あとXXX万円!」ってカウンターが出るようにしてほしい。たぶん、視聴者だけでなく、あのおうちの人たちも今いくら借りているのかわかってないと思います。この状況で、また「銀行に借金するから保証人になってください」と言われてしまう賢吉おじさんが気の毒でなりません。

 また借金か……とがっくりするだけでなく、今週、よかったシーンもありました。上京した暢子が客としてイタリアンレストラン「アッラ・フォンターナ」を訪れて、小学生の時に食べた味だと気づくところ。8年前のオリーブオイルの味を覚えているほど舌の記憶力が強いことと、物おじせずに質問して「ありがとうございます!」と感謝できるまっすぐさは、彼女の美点だと思う。

 そして鶴見のお店で沖縄の音楽を聴いているうちに、三線を弾くお父ちゃん(大森南朋)の幻がふわっと現れるシーン。幼い頃に聞いたお父ちゃんの「離れていても家族」という教えを、ゴーヤチャンプルーとともに思い出すシーン。レストランでの採用試験中、お父ちゃんの残した包丁を見て、失いかけた自信を取り戻すシーン。優しいお父ちゃんによってのびのびと明るく育てられたおかげで、暢子の中心にまだ彼は生きている。

 だがしかし。お父ちゃんのすばらしさを思い出した上で、暢子のその他のふるまいと、他の家族――特に賢秀の行いを見ていると、「お父ちゃん、死ぬのが早すぎた! もっとみんなに教えないといけないことが残ってたのに!」と残念さが際立ってきます。せめて「これ以上の借金はするな」と遺言は残してほしかった……。

 あの家族は、彼らを信じてお金を貸した相手との「いつまでにお金を返す」という約束を破り続けてるんですよね。予定していたお金が戻らなくて困るだけでなく、約束を守ってくれないことがどんなに人の気持ちを傷つけているのか、わかってないのがイヤだなあと思います。でも、「返せ!」と怒られているシーンで流される音楽・劇伴はたいてい明るいものなので、見ている私の感情と音楽のずれが大きくて、毎回混乱します。暢子が夜中に土地勘のない街をさまよい、酔っ払いに触られるところで、私は心底ゾッとしたんだけれど、ここでも劇伴は明るい。賢秀が暢子の金を盗んでギャンブルに使う、肉親による盗難という恐ろしい場面でも、やっぱりなんだか楽しげな劇伴。

 イヤだなと思ったところで流れる音楽がずっと笑いを誘うような明るさなので「私が感じている気持ちが間違ってるの? ここ、笑うべきところ? いや笑えないよね?」と、ズレを感じてしまうのもつらいところ。そのズレがずっと続くので、暢子たち家族を応援するよりも、彼らに迷惑をかけられていることを明るい音楽でごまかされているような周りの人々に気持ちが寄り添ってしまう。

 東京へやってきた暢子は、賢秀の失踪で住む場所がないというアクシデントがあったものの、三線が聴こえたからといきなり訪れた家に泊めてもらえ、店への紹介状も書いてもらえて、テストも難なくパスして就職が決まる。サイコロで毎回6が出てラッキーなワープのマスにとまり続けているすごろくのような展開。いや、暢子がぴょんと飛び越したマスの話が見たいんですよ。どうやってイタリアンの食材からおいしい沖縄そばを作ったんですかー!という、こちらの声は届かず「よかったね! よかったね!」と、楽しげな劇伴にかき消される。ああ、せめて、あの長い髪が、本格的にキッチンに入る回からはきちんとまとめられていますように。この声も届かないだろうけれど。

■番組情報
NHK連続テレビ小説『ちむどんどん
[NHK総合] 月~金 8:00-8:15 / 月~金 12:45-13:00(再放送)
[BSプレミアム・BS4K] 月~金 7:30-7:45 / 土 9:45-11:00(再放送)
[見逃し配信] NHKプラス

出演:黒島結菜、仲間由紀恵、大森南朋、竜星涼、川口春奈、上白石萌歌ほか
作:羽原大介
音楽:岡部啓一、高田龍一、帆足圭吾
主題歌:三浦大知「燦燦」
語り:ジョン・カビラ
制作統括:小林大児、藤並英樹
プロデューサー:高橋優香子、松田恭典
広報プロデューサー:川口俊介、鈴木 葵
演出:木村隆文、松園武大、中野亮平ほか
制作:NHK
公式サイト:nhk.or.jp/chimudondon

渡辺裕子(イラストレーター/コラムニスト)

テレビ大好きイラストレーター。
テレビや映画について書いてるnote → http://note.mu/satohi11

わたなべひろこ

最終更新:2023/02/04 23:40
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