トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 「部落問題」を明るく語り合う実録映画
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.687

「部落問題」を明るく語り合うドキュメンタリー『私のはなし 部落のはなし』

「過去を封印された」満若監督の意欲作

「部落問題」を明るく語り合うドキュメンタリー『私のはなし 部落のはなし』の画像2
部落の歴史を、黒川みどり教授は分かりやすく解説する

 部落問題についての知識がない人でもスムーズに入っていけるよう、ポイントごとに解説が入っている。被差別部落史を専門とする黒川みどり教授は、部落問題を簡潔に説明し、とても分かりやすい。また、1968年(昭和43年)に8ミリフィルムで撮影されていた記録映画が復元され、バラックがひしめくかつての部落に隣接していたスラムの生活環境が映し出される。

 もちろん、部落解放の歴史をただなぞっただけのものにはなっていない。1975年(昭和50年)に起きた「部落地名総鑑事件」についても触れている。全国の部落の地名がリストになった「部落地名総鑑」の購入者が、上場企業を中心に200以上もいたことが発覚した事件だ。全国で回収され、焼却処分に遭ったはずの「部落地名総鑑」だが、その後もたびたび同類の事件が問題となった。

 2016年(平成28年)には、「復刻版 全国部落調査」の販売とウェブサイト掲載をめぐる裁判が起きている。現在も続くこの裁判で提訴された「鳥取ループ」こと宮部龍彦氏も、本作に登場する。「差別する本人が悪いのであって、情報を載せた自分は悪くない」などの発言で知られる宮部氏の持論が語られる。きれいごとだけで済ませていないのも、このドキュメンタリー映画の特徴だろう。

 鎌倉時代にまでさかのぼる部落の起源から、現代社会に残る差別意識、そして「部落」と「天皇制」との関係についてまで「部落問題」の全体像を捉え、本作は上映時間3時間25分(10分間の途中休憩あり)の大作ドキュメンタリーとなっている。この意欲的なドキュメンタリー映画を撮ったのは、1986年生まれ、京都府出身の満若勇咲(みつわか・ゆうさく)監督だ。

 満若監督が部落問題に関わることになったのは、学生時代の体験がきっかけだった。大阪芸術大学3年生だった満若監督は、実習課題として60分間のドキュメンタリー作品『にくのひと』(07)を撮っている。普段、自分たちが口にしている肉はどのような工程を経て、食卓に並んでいるのか。そんな素朴な疑問から始まり、満若監督は牛が解体される様子や食肉センターで働く人々を取材した。『にくのひと』は各地の上映会で高く評価され、都内のミニシアターで公開されることが決まった。

 ところが、被差別部落にあった食肉センターの地名を明かしていることや、主人公の青年が「エタ」という言葉をジョークにしていることなどが問題視され、『にくのひと』は公開中止となってしまう。激しい抗議を受け、「この問題にはもう関わりたくない」と思ってもおかしくない。だが、満若監督は社会人となり、ドキュメンタリー監督としてのキャリアを積み重ねた上で再び、しかも大きなスケールで「部落問題」に取り組んでみせた。

満若監督「自分の中で『にくのひと』が公開できなかったことは挫折感として残っています。でも、いつまでも『過去を封印された監督』として語られるのは嫌だなと(笑)。『にくのひと』に関しては、僕自身が部落問題をきちんと捉えきれていなかったという反省点もあるんです。自分の至らなかった部分を見つめ直すことで、自分の認識も改めたかった。学生だった僕の取材に協力してくれ、応援してくれていた人たちへのけじめとして、もう一度ちゃんと部落問題に向き合おうと思ったんです」(2/4 P3はこちら

1234
ページ上部へ戻る

配給映画