夢を実現させた後の“セカンドキャリア”を描く 木幡竜主演作『生きててよかった』
#映画 #パンドラ映画館
地下格闘技場に集まる人々も含め、欠損感を抱えるキャラクターたち
監督第2作が撮れずにいた鈴木太一監督は、半自伝的映画『くそガキの告白』の主人公と同様に実家で母親との二人暮らしを続けていた。格闘技好きな鈴木監督は、AKB48グループ出演ドラマ『豆腐プロレス』(テレビ朝日系)の脚本執筆や短編映画を制作していたが、結婚式で上映する動画の編集バイトなどをすることもあったそうだ。しかし、映画やTVドラマの仕事が来ることを期待し、長期バイトはしなかった。実家暮らしなので、生きるか死ぬかの危機感もなく、そんな自分が嫌になっていたという。ぬるま湯地獄のような10年間だった。
鈴木監督「僕が学生の頃に家を出ていった父親が亡くなって、わずかでしたけど財産を残していたことが分かったんです。『生きててよかった』の主人公と、同じような状況でしたね。父の遺産には手を付けるつもりはなかったんですが、少しずつ使ってしまっていました。『豆腐プロレス』の脚本を書いているときは、楽しかった。脚本の仕事は今後も続けたいんですが、脚本だけだと責任感を伴わないというか、楽しいだけだと物足りなさを感じてしまうんです。じゃあ、監督やるのも楽しいのかと言えば、しんどいですよ。でも、やっぱりキャストやスタッフと一緒になって、自分が持っているものをさらけ出すことや物語を形にすることにやりがいを感じているんです」
どこまでも自分の道を貫こうとする創太と健児。命を削るような創太の生き方に反対していた幸子だったが、物語が進むにつれて、幸子も普通ではない一面を持っていることが明るみになっていく。創太と幸子は表裏一体の関係だった。アクションだけでなく、かなりハードな濡れ場も用意されている。
地下格闘技を主宰する新堂や地下格闘技場に集まる人々も含め、『生きててよかった』の登場キャラクターたちは、みんな欠損感を抱えている。鈴木監督の独特の世界観に、観客の中には抵抗を感じる人もいるかもしれない。だが、そんな欠損感だらけの歪んだ世界で、創太は生命の炎を燃やし、「生きててよかった」と実感することになる。最後に見せる木幡竜の表情が素晴らしい。
鈴木監督「監督第2作が撮れずにいた頃は、『次の映画が撮れれば、監督はやめてもいい』くらいのつもりだった。映画を撮り続けている人なら『俺には映画を撮ることしかできない』とかっこよく言えるけど、僕が口にすると『ろくに映画を撮ってないじゃないか』とツッコミを受けてしまう(苦笑)。『生きててよかった』が完成した今は、第3作を早く撮りたくて撮りたくてたまりません」
夢を叶えた後の世界で生きていくことの苦しみや痛みを描いた異色のアクション映画『生きててよかった』は、かくして完成した。この映画には、木幡竜ら俳優たちだけでなく、鈴木監督が生きていることの喜びを噛み締めている心情も、くっきりと投影されている。
『生きててよかった』
監督・脚本/鈴木太一 アクション監督/園村健介
出演/木幡竜、鎌滝恵利、今野浩喜、栁俊太郎、長井短、黒田大輔、渡辺紘文、永井マリア、木村知貴、三元雅芸、銀粉蝶、火野正平
配給/ハピネットファントム・スタジオ 5月13日(金)より新宿武蔵野館、池袋シネマ・ロサほか全国公開
©2022 ハピネットファントム・スタジオ
happinet-phantom.com/ikiteteyokatta
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