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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.686

夢を実現させた後の“セカンドキャリア”を描く 木幡竜主演作『生きててよかった』

夢を追うことで人生が蝕まれていく主人公たち

夢を実現させた後の“セカンドキャリア”を描く 木幡竜主演作『生きててよかった』の画像2=
『くそガキの告白』に主演した今野浩喜(画像右)は、鈴木太一監督の分身のような役

 主演俳優の木幡竜は、プロボクサーとしての経験の持ち主だ。プロボクシング引退後、俳優に転身。日本ではなかなか芽が出なかったが、ドニー・イェン主演映画『レジェンド・オブ・フィスト 怒りの鉄拳』(10)ではラスボスを演じるなど、中国映画界でキャリアを磨いてきた。

 映画初主演となった本作では、『ベイビーわるきゅーれ』(21)などで知られる園村健介アクション監督を迎え、正統派のボクシングから地下室で繰り広げられる総合格闘技まで、迫力あるアクションシーンをノースタントで演じてみせた。冒頭のボクシングシーンでKOを喰らう瞬間は、木幡自身の強い要望でリアリティーを追求し、ガチで現役ボクサーのパンチを浴びるなど、スクリーンからは生々しい痛みが伝わってくる。

 主人公たちの人生を変えたのは、一本の映画だった。少年時代の創太は映画『ロッキー』(76)を観て、ボクサーを目指すようになった。一方、親友の健児はシルベスター・スタローンに憧れて、俳優の道へと進むようになった。

 プロボクシングと違って、俳優はライセンスを必要としない。やめどきが分からず、オーディションに落ち続けている健児も苦悩している。夢を追うことは楽しいが、気がつけば後戻りできない年齢になっていた。夢が創太や健児の人生を蝕んでいく。彼らに振り回される幸子ら家族もつらい。夢を追い続けるあまり、人生を棒に振るかもしれないという恐怖感が主人公たちに襲い掛かる。

 鈴木太一監督は、2013年の『くそガキの告白』DVDリリース時に今野浩喜との対談で日刊サイゾーに登場している。企画から6年がかりで『生きててよかった』を完成させた鈴木監督に、紆余曲折した道のりを語ってもらった。

鈴木監督「木幡竜さんの主演映画というオファーを、ファントム・フィルム(現ハピネットファントム・フィルム)からもらったんです。木幡さんに真価を発揮してもらうなら、やはりアクションものだし、木幡さんから『ボクサーはセカンドキャリアをうまく築けないことが多い』と聞き、そんな人間を描きたいと思った。木幡さんの実体験を生かした主人公を中心に、幼なじみの幸子や健児の視点も交え、話が広がるものを考えたんです」

 プロットづくりは2014年から始まったが、なかなか制作には至らなかった。『くそガキの告白』は「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」で4冠に輝き、高い評価を得たものの、自主映画を1本撮っただけの鈴木監督の一般的な知名度はないに等しかった。木幡竜も『アバランチ』にキャスティングされる以前であり、日本国内ではまだ知られていなかった。無名の監督&主演俳優のアクション映画の企画は、撮影(2020年)に入るまでに時間を要した。

鈴木監督「今野さん主演作『くそガキの告白』が公開されてしばらくは、オファーがいろいろとあったんです。でも、映画の企画は実現しないもののほうが圧倒的に多い。クランクインの3週間前になって、いきなり制作中止になった企画もありました。原作付きの企画は、原作者に断られた瞬間に企画も消える。4~5年経つと、新しい若手監督たちが出てくる。いろいろあった企画が次々と消え、唯一残った企画が『生きててよかった』だけでした。この企画が残っていたことが、僕の心の支えでしたね。木幡さんと僕は同い年(1976年生まれ)。木幡さんも日本でももっと活躍したいと願っていたはず。映画監督になったものの新作が撮れずにいた僕と、似たような心境だったと思います」

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