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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 日本に実在した“山の民”を描く映画『山歌』
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.682

山窩(サンカ)と呼ばれる漂泊民が日本にいた! 謎多き“山の民”との遭遇劇『山歌』

日本から失われつつある文化を追い続ける笹谷監督

山窩(サンカ)と呼ばれる漂泊民が日本にいた! 謎多き“山の民”との遭遇劇『山歌』の画像2=
サンカの長である省三役は、アウトロー役を得意とする渋川清彦

 ひとつの土地に定住することなく、暑い夏は涼しい高地へ、寒い冬は暖かい土地へと移住しながら、自然と共に生きたと言われる幻の漂泊民・サンカ。三角寛、椋鳩十、五木寛之ら多くの作家たちがサンカを題材にした小説を執筆するなど、システム化された社会で生きる都市生活者にとって、サンカはロマンを感じさせる存在でもある。

 サンカは、大自然の中でタフに生き抜く生活術に加え、人里を訪ねては「門付芸」を披露するなど芸能にも秀でていたことが知られている。本作の中でも、サンカの娘・ハナは祝い唄「春駒」を歌い、また雨の中で踊るシーンもある。健康的なエロティズムを感じさせる場面だ。オーディションで選ばれた小向なるは、山道を走るトレイルランニングの練習を積み、精悍さを感じさせるサンカの娘になりきってみせている。

 滅びつつあるサンカの長である省三を演じるのは、はみだし者を演じることの多い渋川清彦。笹谷監督は脚本執筆段階から、『島々清しゃ』(17)に出演していた渋川をイメージして省三役を書いたそうだ。また、劇団「天井桟敷」で活躍した蘭妖子が、老婆役を怪しく演じている。長きにわたって放浪生活を続けるサンカ一家に、ぴったりの配役だろう。

 放浪の民・サンカへの強い憧れを感じさせる本作を、監督・脚本・プロデュースの三役を兼ねて完成させた笹谷遼平監督に、その制作内情について語ってもらった。

笹谷監督「高校生の頃に観た、トニー・ガトリフ監督の『ガッジョ・ディーロ』(97)というフランス映画がすごく印象に残っていたんです。ジプシー 、今でいうロマとして生きる人たちのたくましさ、音楽の素晴らしさを感じさせる映画でした。わたしにとっての映画の原風景になっている作品です。それからしばらくして、友だちの家でサンカの本を見つけ、『サンカって何?』と尋ねたところ、『日本のジプシーだよ』と友だちが答えたんです。『ガッジョ・ディーロ』を観て感激した想いが、そのとき蘇りました。保守的な土地柄の京都で生まれ育ったこともあり、放浪の民に対する憧れが、わたしにはあるようです」

 笹谷監督は同志社大学在学中、日本各地の秘宝館をめぐるドキュメンタリー作品『昭和聖地巡礼 秘宝館の胎内』(07)で監督デビューを果たしている。その後も、性玩具の職人らを取材した『すいっちん バイブ新世紀』(11)、東北や北海道に根付く馬文化を題材にした『馬ありて』(19)などのドキュメンタリー作品を撮ってきた。表立って語られることの少ない、日本から失われつつある文化を追い続けてきた監督だ。『山歌』は劇映画デビュー作となる。

笹谷監督「わたしは1986年生まれなんですが、高度経済成長時代への憧れを持っています。あの時代の映画には力強さを感じますし、歴史に名前を残す政治家よりも、歴史の影で生きてきた人たちに惹かれます。サンカは戦後までは実在していたことが確認されているんですが、1960年代には姿を消したと言われています。すでに存在しないのなら、ドキュメンタリーにすることはできません。それで劇映画として撮ることにしたんです。新藤兼人さんが名誉学長を務めていた日本シナリオ作家協会のシナリオ教室で、脚本の書き方を学びました。伊参スタジオ映画祭の脚本コンクールに3年連続でサンカを題材にしたシナリオを送り、3回目の応募で大賞に選んでもらい、映画化することができたんです」

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